史上最高の「スポーツ映画」30選

10位『プライド 栄光への絆』(2004)


米テキサス州オデッサの高校アメフトチームのシーズンを追ったジャーナリスト、バズ・ビッシンガーのノンフィクション作品の映像化はかなり難しいだろうと思われていた。スポーツ映画につきもののドラマを失わずにリアルなガッツとジャーナリズム特有のディテールをすべて表現する方法は? 『プライド 栄光への絆』のピーター・バーグ監督は、ドキュメンタリーから着想を得た手持ちカメラとフィールド内外での選手の高まる感情描写のバランスを保つことで答えを見出した。そこに高給取りのコーチを演じるビリー・ボブ・ソーントンの手堅い演技を加えて盤石な基礎を築いたのだ。いまでは映画よりも2006年のテレビドラマ『Friday Night Lights(原題)』のほうが人気かもしれないが、「澄んだ目と胸いっぱいの感動」という詩的なセリフでお馴染みのテレビドラマ版ができるずっと前から同作は人間関係、田舎町特有の熱狂的なスポーツ愛、手に汗握るドラマというテレビドラマを成功へと導いた要素をすでに確立していた。KP

9位『アイルトン・セナ〜音速の彼方へ』(2010)


1994年のF1サンマリノグランプリの事故で命を落とす前から、ブラジル生まれのレーシングドライバー、アイルトン・セナは国民的英雄として崇められ、1980〜1990年代のF1を象徴する存在になっていた。アシフ・カパディア監督は『アイルトン・セナ〜音速の彼方へ』を手がけるにあたり、おもにホームビデオ映像、記者会見、インタビューのオフショット、コックピット映像をつなぎ合わせて波乱に満ちたF1チャンピオンのキャリアを描いた。そこにはもちろん、フランス人ドライバーで当時はマクラーレンのチームメイトだったアラン・プロストとの激しいライバル関係も含まれる。同作でセナは、カリスマ的で類稀なる技術を持ち、レースをこよなく愛する人物として描かれている。そんなセナの愛は、安全よりもスリルを重視する運営団体から必ずしも報われることはなかった。カパディア監督はアスリートの行動と功績だけを頼りにその生涯をとらえ、偉大な人物をただ称えるための映画以上の作品に仕上げた。スリルに満ちたセナの勝利を詳細に描いたドキュメンタリーだ。KP

8位『モハメド・アリ かけがえのない日々』(1996)


1974年、レオン・ギャスト監督は“キンシャサの奇跡”と呼ばれたモハメド・アリとジョージ・フォアマンの試合をカメラに収めるため、ザイール(現コンゴ)に向かった。そして財政上の困難を乗り越え、20年以上をかけて『モハメド・アリ かけがえのない日々』を完成させた。そんな監督の苦労は報われた。20年という歳月がもたらしてくれた広い視野のおかげもあり、第69回アカデミー賞(1997)長編ドキュメンタリー賞を受賞した同作は、伝説の試合の決定版と呼ぶにふさわしい作品に仕上がった。さらに同作には、作家ノーマン・メイラーやジャーナリストのジョージ・プリンプトンといった著名人のインタビュー、トレーニング映像、さらには“グレーテスト”がチャンピオンベルトを奪還した瞬間をとらえた映像も収録されている。試合当時、無敗のヘビー級チャンピオンと対戦するアリに勝ち目はないと人々は思っていた。狂気じみた対決と思う者もいれば、最終的には虐殺に終わってしまうのではと心配する人々もいた。だが、子どもたちがアリの名を叫ぶなか、カリスマ的なボクサーがアフリカの混雑した通りを走る姿を観ると、人々に愛されたチャンピオンはそう簡単に倒されることはないと突然気づかされる。原題『When We Were Kings(俺たちが王様だった頃)』には、すべてが込められているのだ。NM

7位『スラップ・ショット』(1977)


脚本家ナンシー・ダウドは、アイスホッケーのマイナーリーグで活躍していた弟の経験をもとに、失われてしまったスポーツの大義にオマージュを捧げると同時に冒涜的な痛快スポーツコメディ『スラップ・ショット』を生み出した。主演のポール・ニューマン扮する選手兼コーチは、破綻状態の鉄鋼の町の英雄的存在である地元チーム“チャールズタウン・チーフス”を再生させようと、しばしば暴力的で問題のある作戦を用いる。ジョージ・ロイ・ヒル監督はエネルギッシュにアイスホッケーリンク上のカオスを描いているが、同作が心に響く本当の理由は、全体に漂っている徒労感のおかげだ。たとえチームが勝ったとしても、彼らは生まれながらの負け犬であることを絶えず思い知らされる。とんでもないラフプレーを連発するハンソン3兄弟に拍手。KP

6位『さよならゲーム』(1988)


マイナーリーグの中年キャッチャー、“クラッシュ”・デイヴィス(ケヴィン・コスナー)にとってもはや野球は、勝つことよりも我慢することのほうが多いものになっていた——いまでは、こうした考え方は気高いというよりも愚かだと思われるだろう。そんなクラッシュは、才能ある風変わりな若手ピッチャー、“ニューク”・ラルーシュ(ティム・ロビンス)の教育係に任命される。教育係といえば聞こえが良いが、実際には子どものおもりのような仕事だ。だが、これを機にクラッシュはアニー(スーザン・サランドン)と出会う。アニーは“チャーチ・オブ・ベースボール”という組織を自ら立ち上げ、個人的なプロジェクトとして毎年有望な若手選手の世話をする熱狂的な野球ファンだ。『さよならゲーム』は、たとえ自らがスポットライトを浴びることがなくても野球を愛する人々へのトリビュート作品である。同作は、爽やかな恋愛映画であると同時に華やかとはいえない野球の側面を浮き彫りにしている。そして歳を重ねることと妥協の必然性を教えてくれる——過去にすがるよりは、そのほうが良いのだから。KP

5位『ボールズ・ボールズ』(1980)


『ボールズ・ボールズ』は史上最高のゴルフ映画なんかじゃないとあなたは言うかもしれない。でもそれは違う。引用したくなる名言満載のリピート必須の同作は、1980年の夏に劇場で公開されて以来、かなり多くの熱狂的なファンを集めてきた。その理由は明白だ。ティーグラウンドからプロゴルファーのジョーダン・スピースばりの勢いでジョークを飛ばす不動産成金のアル(ロドニー・デンジャーフィールド)、宿敵のモグラと全面対決中の開いた口がトレードマークのグリーンキーパー、カール・スパックラー(ビル・マーレイ)、テッド・ナイト扮する悪辣なジャッジ・スメイルズ、チェヴィ・チェイス扮するぶっきらぼうな皮肉屋のタイ・ウェッブなど、たとえゴルフが嫌いな人でも、お気に入りのキャラクターが見つかるはず。公開から35年が経ったいまでも『ボールズ・ボールズ』がクレイジーな脱力系スポーツ映画の金字塔であり、『ビッグ・リボウスキ』のような作品の心の祖先的作品であり続けているのは、意外なことでもなんでもない。最低最悪の続編『ボールズ・ボールズ2/成金ゴルフマッチ』(1988)のことは忘れて、芝生が美しく、モグラが無敵で、最終的には全員がセックスして終わるシンプルな時代を思い出すようにしよう。まさにシンデレラ・ストーリーのような作品だ。JM

4位『レイジング・ブル』(1980)


マーティン・スコセッシ監督は前に一度「ボクシングのことは何ひとつわかっていなかった」と告白した。『レイジング・ブル』がボクシングというスポーツをここまで残酷かつロマンチシズムとは一切無縁に、そして魅力に欠けながらも説得力に満ちた実在のボクサー、ジェイク・ラモッタ(ロバート・デニーロ)を描いた理由はここにあるのかもしれない。モノクロで撮影し、ありのままの暴力を際立たせる革新的なファイトシーンを取り入れながら、スコセッシ監督は単なるボクシング映画を創っていたわけではなく、いままでの作品の連続として、男らしさが関わるすべての人を毒していく方法を探求した。伝記映画というよりは、リングに立つ(そしてその時の殺人本能を持ったまま家に帰る)男の心理学検査である同作は、アンチ・ロッキー作品でもある。道徳上の勝利もなければ、主人公は意中の女性を手に入れることもできないのだ。TG

Writers : KEITH PHIPPS & NOEL MURRAY & TIM GRIERSON & JAMES MONTGOMERY & BILGE EBIRI & DAVID FEAR / Translated by Shoko Natori

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