産後に死を覚悟したからこそ新しいキャリアを見つけた女性起業家|音楽ビジネスストーリー

ーキャリアの目標に向かって進むだけでなく、ご自身の健康の健康管理から娘さんの世話まで、どのようにこなしていたのですか?

これは最高に難しいことでしたし、いまもそうです。ちょうどいいバランスを探し続けているんです。クライアントに限らず、人とのあいだに境界線を設けるのがずっと苦手でした。ずっと「どんなときも対応できるわ! 24時間、いつでも電話OK!」的なスタンスで働いてきました。だから、そこから変えなければいけませんでした。必要とされているときに対応できないのは辛いのですが。瞑想アプリも役に立ちます。あとは、ストレスを取り除くためにワークアウトするのも好きです。たいていの場合は、ヨガなんですけどね。

ー最近は、ソングライターのロス・ゴーランと仕事を始めましたね。ゴーランといえば、セレーナ・ゴメスやアリアナ・グランデといったアーティストの人気曲を手がけた人物です。

ロスは、私の親友のひとりです。一緒に音楽をつくるのが大好きなので、いくつかのソングライターたちと契約したんです。ふたりでちょっとしたプロジェクトを企画しています。いまの段階では、これ以上は言えないのですが。

ー外出自粛期間中は、TikTokの凄まじい影響力をご自身で目の当たりにされたと思うのですが、それについてどう思いましたか?

「Savage Love」というトラックが——そのときはまだインストゥルメンタルでした——TikTokで爆発的に拡散していました。私たちも耳にすることが多かったのですが、その背景までは把握していませんでした。自粛期間が3週目に入ろうとしたとき、ジェイソン・デルーロからキャッシュにあることを依頼してきました。ジェイソンとキャッシュはほぼ毎回一緒に仕事をしていて、ジェイソンのヒット曲の多くはキャッシュが手がけたものです。ジェイソンはキャッシュに例のトラックを送り、「マジでビートが最高だ。TikTokで拡散しまくってる。これに歌をつけるのを手伝ってくれないか?」と言いました。そこでキャッシュは「もちろん。君が言うならなんだってやるよ。任せてくれ」と応じました。

リリースまでの道のりはなかなか大変でした。私が思うに、ジェイソンはプロデューサー(Jawsh 685)の許可なしにトラックをリリースしたんです。ただTikTokにリークして動画をつくった感じですね。その後、トラックを削除しろ! という反動が生じました。契約締結プロセスの真っ只中にいたJawsh 685にとってフェアじゃないというのが人々の言い分でした。人々はジェイソンが楽曲を乗っ取ったと非難しましたが、徐々にジェイソンのバージョンへとシフトしていきました。Jawsh 685のチームと関係者全員もこれはもう止められないと判断し、リリースしないのは馬鹿げていると考えました。私たちはようやく許可を得、リリースするや否や、「Savage Love」はふたたびバイラルヒットとなりました。人々は、この楽曲をずっとYouTubeで聴いていました。YouTube以外に聴けるところがなかったからです。だから、いまは誰もがハッピーだと思います。

・10代の少女たちを刺激、TikTokで拡散される「プチ断食」の危険な実態

ーこのようなエピソードは例外ですか? それとも、TikTokでビートを探すアーティストが増えているのでしょうか?

正直なところ、初めての経験でした。TikTokで拡散している楽曲の多くはすでに正式にリリースされているもの、あるいは歌のいらないビートだけのものです。これは、じつに興味深い状況でした。前代未聞でしたね。それに、ジェイソンはとてもクレバーでした。

ーTikTokで発掘されるソングライターは増えていますか?

ええ、私はいつもTikTokでソングライターを発掘しています。ソングライターのTikTok投稿を見るわけではないのですが、バイラルヒットを見つけたらクレジット情報をチェックし、誰が作曲したものかを突き止めるようにしています。

ー新型コロナウイルスによるマルーン5の新曲リリースへの影響は?

私の会社の数多くのスタッフが個別に作業し、最後につなぎ合わせてこのすばらしい楽曲をつくりました。アダム(・レヴィーン、マルーン5のフロントマン)が彼らしいタッチを加え、本当の意味で彼の楽曲に仕上げてくれました。これは、いまの時代にかなった方法だと思います。すべての人を結びつけてくれるのですから。もとのアイデアは自粛期間前からあったのですが、動き出したのは自粛期間に入ってからですね。最終的には、ひとつの部屋での同時セッションとは異なる方法で完成しました。すべて、Zoomでつくったんです。アダムのレコーディングもZoomで行いました。ちょっとした機材のセッティングはしましたが、レコーディング中はアダムひとりでした。担当エンジニアたちがZoomにログインし、Source Elementsという新しいツールを使いました。Source Elementsとは、自粛期間中にリアルタイムでレコーディングするためにエンジニアが使用するリモートレコーディング用ツールです。これがすべてを変えましたね。もう二度とスタジオでレコーディングする必要がなくなったようなものですから。

ーかつては、ご自身の音楽出版社を起こすという夢があったそうですね。その気持ちはいまも変わっていませんか?

変わっていません。まさにいま取り組んでいます。近いうちにびっくりニュースをお伝えしますね。

ーいままで得たなかで最良のアドバイスは?

上司だったサイアー・レコードの社長を見ているだけでとても多くのことを学びました。彼はこんなことを言ったんです。「きみがこの業界で学ぶことはすべて、肌で吸収しながら学びなさい。きみはただそこにいればいい。そうすれば、やがてはきみの一部となる」。これは本当です。飛び込むことで私はすべてを学んだのですから




連載:AT WORK

音楽業界を牽引する人々の舞台裏に迫る、米ローリングストーン誌の連載「At Work(アット・ワーク)
From Rolling Stone US

Translated by Shoko Natori

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