社会現象級の大ヒット、ノーラン監督の超大作『TENET テネット』に世界が熱狂する理由

映画館で鑑賞するべき圧倒的体験

登場人物に関していえば、物語は主人公とキャット(エリザベス・デビッキ)の関係を中心に展開する。暴力的で支配欲の強い夫セイターとの情欲の炎が、夫の病んだ心の中にしか存在しないことに彼女は気づかない。幼い息子を理由に妻を支配するセイターは、息子の親権を自分に渡せば生き地獄から解放してやると妻に提案する。この申し出を一瞬考慮してしまうところに、この人物の深みと人間らしさが現れている。『ロスト・マネー 偽りの報酬』やTVシリーズ『ナイト・マネジャー』でも印象的だった上品な白鳥のごときデビッキは、ヒッチコック映画のブロンド女優のような容姿で役を演じるのを潔しとしない。何かにとりつかれたような彼女の瞳は、優位に立つために必要だった努力をそこはかとなく物語っている。それは光り輝く鎧に身を包んだスパイにとっても同じこと。タイトルにもなっている秘密組織の過去と未来の兵士たちにとっても。




© 2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved

簡単に徳が積めるのなら、説得力も現実味もなかろう。それがまさに作品全編を通して――ノーラン監督のほとんどの作品で――語られるテーマだ。時間の力、記憶、そして倫理観ゆえに登場人物は悪に身を染める(仮面をつけずとも正義の味方で居続けようと苦悩するバットマンの姿を描いた『ダークナイト』三部作のブルース・ウェインしかり)。監督はこれまで安易にニヒリズムに走りがちだと批判されてきた。この作品に登場する人物も、経歴が語られることもなければ、人物像が深く掘り下げられることもない。だが、自分の内なる善とつながりたいという葛藤は、切々と我々の胸に語りかける。ルドウィグ・ゴランソンの電気的なサントラの響きに合わせ、『TENET テネット』は純粋かつ魅惑的な映画の波で観客を飲み込む。その中心にあるのは、アンバランスな世界を救うことはできるのか?という問いだ。

ノーラン監督は、映画は劇場で鑑賞するものだという概念を救うことを自らに課した。観客が巨大スクリーンの前に一堂に会し、心と気持ちを通い合わせるという体験を。彼の前に立ちはだかるのは恐ろしい伝染病。あとはあなたの出番だ。


From Rolling Stone US.




『TENET テネット』
9月18日(金)全国ロードショー
© 2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved
監督・脚本・製作:クリストファー・ノーラン 
製作:エマ・トーマス 製作総指揮:トーマス・ヘイスリップ
出演:ジョン・デイビッド・ワシントン、ロバート・パティンソン、エリザベス・デビッキ、ディンプル・カパディア、アーロン・テイラー=ジョンソン、クレマンス・ポエジー、マイケル・ケイン、ケネス・ブラナー
配給:ワーナー・ブラザース映画
オフィシャルサイト:http://tenet-movie.jp
オフィシャルTwitter:https://twitter.com/TENETJP #TENETテネット

Translated by Akiko Kato

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