社会現象級の大ヒット、ノーラン監督の超大作『TENET テネット』に世界が熱狂する理由

映画『TENET テネット』のジョン・デイビッド・ワシントン、ロバート・パティンソン(© 2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved)

9月18日(金)より全国公開されるクリストファー・ノーラン監督の最新作『TENET テネット』。全米で2週連続週末興行収入No.1を獲得、世界興行収入2億ドルを達成する一方で、「ノーラン史上もっとも難解」という声も聞かれる本作の見どころに迫る。評者は米ローリングストーン誌の名物映画評論家、ピーター・トラヴァース。


観客を映画館に連れ戻す超大作

映画の魔術師クリストファー・ノーラン監督による新作映画『TENET テネット』は、途方に暮れて行きつ戻りつしていると言われても仕方がない。実のところ、その通りなのだ――監督/脚本家のノーランは、ついて来いと言わんばかりに我々を挑発してくる。「アフリカ系アメリカン版ジェームズ・ボンド」よろしく、オーダーメイドのスーツでびしっと決めたジョン・デイビッド・ワシントン演じるスパイは、まるでノーラン監督の2010年の映画『インセプション』の登場人物に紛れ込んだかのようだ。ノーラン監督は2001年の出世作『メメント』以降ずっと、時間に対する概念を覆してきた――2017年の戦争映画『ダンケルク』でさえ、おなじみの史実を巻き戻しと早送りを織り交ぜた視点で描き、観客に見せつけた。最新作は三大陸7カ国をまたにかけて繰り広げるSFスリラー。ノーラン監督の時間への執着が最高潮に達した作品だ。

●【画像を見る】世界中が熱狂、『TENET テネット』の目もくらむような映像世界

『TENET テネット』――そう、英語タイトルは回文になっている――は、COVID-19が蔓延する2020年、アメリカではIMAXも含め初めて劇場公開される超大作映画だ(製作費は2億ドル。海外で先行公開されたあと9月3日より全米公開された)。映画ファンの足をシネコンへ再び向かわせる作品があるとすれば――もちろんマスク着用、ソーシャルディスタンス厳守――まさにこの映画だ。ノーラン監督が最初に仕掛ける衝撃映像は、キエフの歌劇場を舞台に展開する。超満員の観客(懐かしい)が開演を待つ中、このご時世にふさわしい不気味な保護服を着たスパイ軍団が会場の換気口からガスを噴霧し、目的のものを奪って逃走する。手に汗握る緊迫の場面は、ホイテ・ヴァン・ホイテマの躍動的かつ圧倒的なカメラワークでよりいっそうスリリングだ。彼にとって、この手の見せ場はお手の物。往年のボンド・ムービーらしさを復活させた2015年の『007 スペクター』で実証済みだ。

襲撃団に紛れ込んだワシントン演じるCIA潜入捜査官がマスクを外すと、悪い予感がすべて的中する。「我々が住む世界は終わりに近づいている」と言い放った後、彼は線路に括りつけられ、運命の時を待つ。だが持ち前の機転とスパイならではの技で逃亡。ハラハラどきどきの2時間半、名前が明かされることのないこの模範的人物は一体何者なのか? 「俺は主人公だ」というセリフに、観客はただ唖然とするか、大爆笑するかのどちらかだろう。これぞまさにノーラン節。英国人の父とアメリカ人の母を持つロンドン生まれの映画監督が、あまりにも冷淡で哲学的だという人は、注意が足りない。わかりやすいのが好みならマイケル・ベイ監督作品を見ればいい。

Translated by Akiko Kato

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