コロナで財政難が深刻化した米郵便公社、音楽業界でトラブル頻発

郵便物をめぐるトラブルが相次ぐ米音楽業界(Photo by Kristin Karch)

遅延、破綻した追跡機能、破損など、郵便物をめぐるトラブルが、音楽レーベルの従業員、ファン、インディーズミュージシャンたちの間で深刻化している。

米南部ミシシッピ州を拠点とするインディーズレーベルのFat Possum Recordsのスタッフは、ベテランパンクバンドXの27年ぶりのアルバムの発送作業の真っ只中にいた。そんな彼らは、1000枚のアナログレコードをいったいどうやって郵便局員が運転するジープ・チェロキーに納めればいいのだろう? という予期せぬ問題に直面していた。

いままで音楽レーベルにとってアナログレコードの配送は、それほど大変な作業ではなかった。通常であれば、郵便局員が数台の2トントラックで乗り付け、何の問題もなくFat Possum Recordsのアナログレコードをすべて納めることができた。それなのに、その日到着したのは4台のトラックではなく、1台のジープだった。同レーベルのマーケティングおよびディストリビューション部門の幹部を務めるパトリック・アディソン氏は、何枚かのアナログレコードを郵便配達員の膝に載せなければいけないほどジープがパンパンになってしまったと言った。「こうなってしまうと、郵便局員にとって危険ですし、アナログレコードにとっても安全かどうか疑問です」とアディソン氏は本誌に語った。

突如として米郵便公社(USPS)を襲った財政難は、パンデミック中にドナルド・トランプ大統領がUSPSへの資金支援を拒否したことの副産物である。民主党の議員の多くは、来たる大統領選で増えると予想される郵便投票を妨害するためにトランプ大統領がこのような行為に及んだと考えている。コロナ時代のニューノーマルに適応しようと事業者が奔走する最中に浮上したUSPSの低迷は、ツアー活動の中止によって収入面での打撃を受けた多くの音楽レーベルとアーティストにさらなるストレスを加える結果となってしまった。

Fat Possum Recordsは、USPSの低迷によって被害を受けた多くの音楽レーベルのひとつだ。米南東部ジョージア州アセンズを拠点とするArrowhawk Recordsのオーナーのアリッサ・デヘイズ氏は、顧客の大半は理解を示してくれているものの、クレームの件数もかなり増えてきたと指摘する。「出荷した商品のなかには、追跡情報が一向に更新されないものもあります」とデヘイズ氏は言う。「あるいは、配送の途中で追跡情報が途絶え、1カ月経っても商品が届かない場合もあります。地元のある友人がエナメル製のピバッジを5分あれば行ける町の反対側に送ったのですが、わざわざプエルトリコを経由してからジョージアに戻ってきました」。

USPSの配達がここまで遅れる明確な理由は何だろう? テクノロジーを専門とするメディアサイト・ギズモードでシニアレポーターを務めるデル・キャメロン氏は、ある郵便局員に取材した際に次のような話を聞いた。その郵便局員は、USPSがパンデミックの真っ只中にコスト削減を行い、仕分け機を撤去したと語ったのだ。「配達がますます遅れるようになりました……私が聞いたところによると、遅延した郵便物は意図的にスキャンされていないそうです。そのため、USPS Informed Delivery(USPSの追跡サービス)の利用者には何の情報も与えられず、一向に来ない郵便物の配送通知だけが送られるそうです」と郵便局員は言った。郵便物が何らかの理由で遅れているよりは、郵便処理センターで足止めを食っていると考えるほうが人々は納得してくれる——現場の監督者たちはそのように考えているとキャメロン氏は述べた。

さらにキャメロン氏は、新任のルイス・デジョイ郵政長官が「まずはAmazonの荷物を、その次にプライオリティメール(訳注:優先扱いの郵便サービス)を優先すること。その次にそれ以外を処理せよ」と配達員に指示したというある情報提供者の発言を明かした。その理由は、Amazonが高収入をもたらしてくれる顧客だからだ。報道によれば、USPSはCDやDVDなどの記録媒体を対象としたメディア・メールというサービスも優先的に処理していない。コスト効率の良さが魅力の同サービスは、数多くのインディーズレーベルから重宝されていた。

Translated by Shoko Natori

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