1970年代、音楽の舞台で再び活躍したエルヴィス・プレスリーを辿る

彼のそういう1970年代のツアーはハワイにやってきます。1973年1月14日、日本時間午後7時30分05秒、私もテレビで観ていました。このハワイでのライブで歌われた曲を聴いていただきます。「Steamroller Blues」、オリジナルはジェームス・テイラー。そして映画『エルヴィス・オン・ステージ』より「Bridge Over Troubled Water(邦題:明日に架ける橋)」です。





1973年1月、ハワイで行なわれたライブアルバム『エルヴィス・イン・ハワイ』から「Steamroller Blues」、映画『エルヴィス・オン・ステージ』から「Bridge Over Troubled Water(邦題:明日に架ける橋)」。「Steamroller Blues」はジェームス・テイラー、「Bridge Over Troubled Water」はサイモンとガーファンクルがオリジナルなのですが、そういう事はもはや考えなくていい。ブルースシンガーとしてのエルヴィス、劇的なバラードシンガーとしてのエルヴィス。2曲ともにそれらを象徴するような曲だったんではないでしょうか。1970年代のエルヴィスは、日本で紹介される時もスキャンダルと紙一重だったと思うんです。1971年に奥さんのプリシラが家を出てしまって、1973年に正式に離婚しました。1970年代の楽曲に別れをテーマにしたものが多かったのは、そういう当時の彼の心境が反映されているんだろうと改めて思います。歌の中にあるスピリチュアルな深み、冒頭の「Danny Boy」もそうですが、誰かの曲をカバーしているという次元ではないんですね。ビートルズはオリジナルの曲があって、全員がソングライターという人たちでしたが、エルヴィスはシンガー・ソングライターではないことの強みというんでしょうか。自分が歌いたい曲、歌うべきだと思った歌を自分のものにしてしまうという意味では、究極の歌い手だと言っていいと思うんです。当時の年齢は30代半ばから後半ですよ。一方で体調とも闘ってたわけですね。亡くなる直前のステージの様子をお聴きいただこうと思います。1977年4月、ミシガン州のアナーバーという場所で行われたライブのテイクです。ライチャス・ブラザーズの曲「Unchained Melody」、そして亡くなった直後に出たシングル「My Way」。亡くなった直後のシングルではライブバージョンでしたが、今回はスタジオバージョンをお聴きください。




エルヴィス・プレスリーで「Unchained Melody」、「My Way」でした。「Unchained Melody」は、1977年4月のライブです。亡くなる直前、自分の人生の最後を覚悟した人の歌というんでしょうか。壮絶なものがあると思いました。今回、「My Way」をライブバージョンにしなかった理由がありまして。亡くなった後に『ジス・イズ・エルビス』という映画があったんです。この映画の最後に、亡くなる直前の「My Way」を歌う姿が収録されておりました。お腹も出てしまい、ピアノの前に座ってもピアノがうまく弾けず、とても悲しそうな表情のエルヴィスが映っていました。映画館であのシーンを観て号泣してしまい、あのシーンはあまり思い出したくないと思って、この淡々としたスタジオバージョン、1971年にナッシュビルで録音されたものを選びました。

Rolling Stone Japan 編集部

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