1970年代、音楽の舞台で再び活躍したエルヴィス・プレスリーを辿る





何度か話に出ております、ラスベガスのインターナショナルホテルでの『エルヴィス・オン・ステージ』。アメリカでは1970年11月、日本では1971年2月に公開された映画『エルヴィス・オン・ステージ』ですね。映画になったのは1970年8月の3度目のショー。カメラは40台で撮影された。監督はデニス・サンダース、1968年にアメリカのドキュメンタリー賞を受賞しており、元々はニュース番組を作っていた映像作家です。『エルヴィス・オン・ステージ』は感動的でしたね。何が感動的だったかというと、音楽がこんな風にドキュメンタリーになるんだ、音楽はこれだけ人の体温や汗など通じて人の心を動かすんだということを映画にして見せてくれた。これはビートルズの映画にはなかった。エルヴィス は1970年代、ツアー人間になるわけです。1972年にはアメリカ南部を廻るツアーを行い、『エルヴィス・オン・ツアー』という映画にもなりました。

そういう活動の中でヒット曲も生まれております。1970年にシングルチャート11位、「You Don’t Have To Say You Love Me(邦題:この胸のときめきを)」、そして2位だった「Burning Love」です。改めて知ったことですが、「You Don’t Have To Say You Love Me」という曲は、ダスティ・スプリングフィールドが歌って大ヒットした曲なんですね。元々はサンレモ音楽祭で生まれたイタリアの曲。そしてダスティ・スプリングフィールドは、ブルー・アイド・ソウルを好んで歌っていて、1968年にメンフィスで全曲R&Bのアルバムを作っていたんだということを知りました。なぜエルヴィスが「You Don’t Have To Say You Love Me」を歌ったのか? これはダスティ・スプリングフィールドへのエールだったんだと思いました。

そして、「Burning Love」は1970年代のソングライターグループが作ったのがオリジナルですね。1970年代にエルヴィス周りにいたソングライターグループが意図していたことがあって、それはゴスペルやR&B、カントリーなどの垣根を取り払うことだったんだそうです。作家陣に共通していたのが、彼らの思春期にエルヴィスに衝撃を受けていた。そういう人たちが集まって、自分たちにとってのエルヴィスはこうだ、ということを形にしようとしていたのが、この1970年代のソングライターグループだった。これは『The Essential 70’s Masters』にデイブ・マーシュという立派な音楽評論家がライナーで書いていたことなんですね。ブルース・スプリンスグステイーンの伝記「明日なき暴走」を書いた人です。これは発見でした。エルヴィスは何でも歌う男だというイメージは間違っている、と彼は書いてました。エルヴィスには、歌って欲しいと必死に売り込んでいるソングライター群が山ほどいた。その中でもエルヴィスは注意深く選んでいたんだと。これは発見でしたね、1970年代のエルヴィスはそうだったんだと改めて気づいたことではあるんですが、こういうことは当時の日本のリスナーにはなかなか理解できなかった。今だからよくわかります。

Rolling Stone Japan 編集部

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE