現実がSFと化した今、「ミレニアル世代の社会派」デクラン・マッケンナは何を歌うのか?

ストーリーテラーとしての影響源は「70年代に描かれた未来」

それは、ロールプレイング的なヴォーカル、とも呼べるのかもしれない。というのも、リリシストとしてのデクランにもちょっとした変化が見て取れる。普段から政治的な発言も多く、前作では性的マイノリティ差別、右派メディア、宗教的抑圧といった題材を取り上げた彼はしばしば“社会派”と評されてきたのだが、今回選んだのは、ストーリーテラーのスタンス。具体的な問題提起よりも、巧みにストーリーに落とし込む形をとった。

「僕は引き続き、世界で起きていることを観察し、話題にしている。事象を観察してそれに対して社会的発言をするのは、僕の音楽の大きな一部でもあるからね。でも今回はストーリーと人に焦点を当てていて、自分の周りで起きていることの観察を元に、それをストーリーとして伝えたり、みんなが共感できるようなキャラクターを曲の中で描きたかった。特に、同じような悩みを抱えている今の若者が共感できる人物像だね。それは僕とういわけでも、特定の誰かというわけでもない。ある感情や思想、人生観や世界観を伝えるための器のようなもので、そうすることで曲に独自の表情が生まれるんだよね」




確かに本作に描かれているのは、未来への不安を抱えて、生き難さと向き合う同世代の若者たちの姿だ。少年時代を送ったロンドン郊外での人間関係・力関係に社会の全体像を重ねる「The Key to Life On Earth」、自分の居場所を見つけられない青年に宛てた「Daniel, You Are Still A Child」、リアルとフェイクの境界が曖昧なSNSの怖さを風刺する「Beautiful Faces」、気候変動に言及した「Twice Your Size」……。殊に後半にかけてはディストピアンな世界が繰り返し描写され、スペイシーなサウンドに加え、隕石やロケットといった宇宙絡みのボキャブラリーも相俟って、レトロ・フューチャーなSFに近い感覚を醸す。この点においても、70年代が重要なレファレンスになったという。

「僕は70年代のSF的なものがけっこう好きで、人類が初めて宇宙に行って、それがポップ・ミュージックやロックにも大きな影響を与えて、デヴィッド・ボウイやT・レックスの作品が生まれた。今は古く感じるかもしれないけど、ヴィジュアルも含めてああいうのを今っぽく表現したらどうなるだろうと思って。それと、“なぜ”という部分だね。なぜ僕たちは空を見上げて、宇宙を題材にしたSF的なものに魅力を感じるのかって。音楽的な部分で言うと、当時の“迷っている感覚”とか“真空空間にいる感覚”を、今に当てはめたらどうなるのだろうかって考えた。仮想現実やSNSに対する感情と重なるものがあるのかなって。環境問題もより現実味を帯びているし、すごくピンときたんだ。実際子供の頃から宇宙にすごく興味を持っていて、その壮大さに夢中だったから、7歳の時に思案していたことに大人になってから回帰したんだろうね」

つまり本作は、一種のコンセプト・アルバムだと言っても過言じゃない。70年代に人々が想像した未来を飛び越えて、現実がSFと化した今、社会という虚空で途方に暮れている21世紀のトム少佐とロケットマンたちに居場所を与えているデクラン。その壮大なヴィジョンは、彼に期待して間違っていなかったことを物語っている。




デクラン・マッケンナ
『ゼロス』
2020年9月4日全世界同時発売予定
2,200円+税
歌詞・対訳・解説付き
国内盤のみボーナス・トラック2曲収録
購入・試聴:https://SonyMusicJapan.lnk.to/DeclanMcKennaZEROSJP!RS

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