最後にチェーンソーを構えた平沢進、「会然TREK」最終公演の意義と「未来を読む力」

四半世紀前から積み上げてきた知見と経験

コロナ禍でエンターテインメントを取り巻く状況は激変したが、平沢進に関しては、従来とさして変わりがないように思える。

例えば8月に行なわれたサカナクションの配信ライブは、「ヘッドホン/イヤホンでの視聴」が推奨されたように、ライブ音源の臨場感を最新技術によって最大限追求することで、オーディエンスに配信ライブのデメリットを極力感じさせないよう配慮していることがわかった。彼らに限らず、この時期に配信ライブを採用したアーティストは皆、ロジカルに「ライブのあるべき姿」を突き詰め、その中で自分の大切にしたい部分、強調したい部分が伝わるよう心を砕き、従来とは異なる手段を試したり、新しい技術を導入したりしていた。

ところが平沢の場合は、1994年から行なっているインタラクティヴ・ライブで「在宅オーディエンス」(※)を取り入れていることからもわかるように、日頃やっていることを状況に応じてアップデートさせたと言う方が正確で、彼の提供するエンターテインメントの形はコロナ前とそれほど変わってはいない。他のアーティストがコロナによって初めて考えるようになったことを、平沢は四半世紀も前から考え、かつエンターテインメントとして成立するよう知見と経験を積み上げてきたのである。そこには「一日の長」どころではない圧倒的なアドバンテージがある。

※1998年に初導入、以後現在に至るまで続けている。


2013年1月のインタラクティブ・ライブ「ノモノスとイミューム」のダイジェスト映像


それどころか、長らく彼の活動を追って来た人は、平沢の作品に漂うディストピア感が、奇しくも世界の今と奇妙にシンクロしていることに気づいただろう。これまでにも幾度となく予言めいたことを発信していた平沢の言説——それが今、まさに新型コロナにより分断が進んだ現実の世界の姿と重なるのである。そういう意味でもこのライブは、ある意味、平沢の「未来を読む力」に時代が追いついた証左を示した機会とも言える。

また、熱心なファンはライヴ中の平沢の言動に即時反応したい向きが多いので、そもそも配信というスタイルは都合がよい部分もある。その証拠に、360°カメラ配信時のチャットルームはとても賑やかだった。中には海外の視聴者による書き込みもあり、彼らが平沢をどう思っているか、どんな曲に反応しているかなどをリアルタイムで知ることが出来るのは嬉しかった。

また、チャットルームは配信ライブ終了後のアーカイヴ期間も生きていたため、2周目、3周目を観るファンの人々が互いに会話して盛り上がっていたりも。ちなみにそこでは終演後、平沢がステージから客席に降りて、満員の観客(合成された映像)に手を振りながら退場する姿に大いにざわついていた(そんな姿は今まで一度も見せたことがないため)。配信ならではの甘やかなファンタジーに心酔しつつ、それでもなお、再びあの波動を全身で体感できる日のことに思いを馳せた。  



平沢進+会人(EJIN)
会然TREK2K20▼04 GHOST VENUE 曲順

2020年6月20日:NHKホール

01. 電光浴-再起動
02. 世界タービン
03. 祖父なる風
04. RIDE THE BLUE LIMBO
05. 狙撃手
06. Σ星のシダ
07. アディオス
08. CARAVAN
09. デューン
10. Switched-On Lotus
11. 生まれなかった都市
12. パレード
13. 庭師KING
14. Wi-SiWi
15. 夢の島思念公園
16. 救済の技法
17. QUIT
18. 現象の花の秘密

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