音楽がもたらす享楽とは何か? 鳥居真道がJBに感じる「ブロウ・ユア・マインド感覚」

ところで、昨年10月にジェームス・ブラウン(JB)のライブ盤がリリースされていたことを知っていましたか? わたしは今年の3月に入ってから知りました。まさにもぐり。『Live At Home With His Bad Self』というタイトルのこのライブ盤は、1969年にJBの故郷、ジョージア州オーガスタで行われたライブを録音したものです。音源自体は1970年リリースのライブ盤『Sex Machine』の2枚目と同じものが使われています。このアルバムの1枚目が擬似ライブであることはよく知られていることです。元々、単独のライブ盤でリリースされる予定だったものを、シングル『Get Up (I Feel Like Being a) Sex Machine』の成功を受けて急遽、新録に歓声をかぶせた疑似ライブ盤を拵え、それらを併せて1組のライブアルバムとして発売したという経緯があったそうです。



1970年はJB史において重要な年でした。その年の3月、鉄壁のバンドメンバーたちが給料未払い、過労などの待遇の悪さを即刻改善しなければやめてやるとJBに最後通牒を突きつけました。JBはこれを退け、オハイオ州シンシナティからペイスセッターズというバンドを呼び寄せます。そのメンバーだったのがブーツィー・コリンズとキャットフィッシュ・コリンズの兄弟です。この新体制によって「Sex Machine」や「Super Bad」、「Get Up, Get Into It And Get Involved」、「Soul Power」といった70年代初頭のJBの代表曲が生みれることになります。そういう意味で、『Sex Machine』には鉄壁の旧体制による研ぎ澄まされた演奏と、フレッシュな新体制による熱い演奏が対になったアルバムです。

正直に打ち明けると『Sex Machine』はそこまでの愛聴盤ではありません。先にコリンズ兄弟が参加したライブ盤『Love, Power, Peace: Live at the Olympia, Paris, 1971』を聴いており、こちらの熱の入った演奏に比べると『Sex Machine』は全体的にもっさりという印象を受けていたからです。

『Live At Home With His Bad Self』と『Sex Machine』は同じ音源ではあるものの、前者は2019年のミックスということでとてもフレッシュに聴こえます。改めて『Sex Machine』を聴くとテンポが遅いではないですか。ピッチも半音近く低い。テープスピードを落としているのだと思われますが、なぜ落としたのか?

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