メタリカ『S&M2』を考察「ライブアルバムを超越した、バンドの成熟と探究心の証」

メタリカ(Photo by Anton Corbijn)

メタリカにとって2016年の『ハードワイアード...トゥ・セルフディストラクト』以来、初の新録作品となるライブアルバム『S&M2』がリリースされた。『S&M~シンフォニー&メタリカ』から20年、再び実現したメタリカとオーケストラの競演作について、音楽ライターの西廣智一に解説してもらった。

「これは単なるライブアルバムではない。過去の楽曲で構成された内容だが、新たな解釈で表現された代表曲の数々は新鮮に響くものばかり。まさしく『ハードワイアード...トゥ・セルフディストラクト』(2016年)に続く4年ぶりの“ニューアルバム”だ……」

これが8月28日にリリースされるメタリカの最新ライブアルバム『S&M2』を初めて聴いたときの感想だった。それくらい、本作には「いつものメタリカ」と「自分の知らないメタリカ」がバランスよく混在している。いや、「いつものメタリカ」と書くと語弊があるかもしれない。正直なところ、過去の諸作品や『ハードワイアード...トゥ・セルフディストラクト』のように攻撃性やヘヴィさが突出した内容ではなく、むしろ(ある意味ではもっともこのバンドらしくないワードのひとつ)“成熟”を強く感じさせる作品とも言えるのだから。しかし、ヘヴィメタルの枠を飛び越え、90年代以降のロックシーンにおける教科書的存在となったメガヒットアルバム『メタリカ』(1991年:通称『ブラック・アルバム』)を経て、リリース当時は問題作扱いされた『ロード』(1996年)や『リロード』(1997年)以降にバンドが繰り返してきた実験……その無数もの“点”がすべてつながり、ひとつの“線”になった。その“線”を最良の形で我々に届けてくれたのがこの『S&M2』なのだと、筆者は断言したい。



改めて本作の成り立ちについて説明しておこう。メタリカは2019年9月6日、8日にサンフランシスコ交響楽団と、2時間半を超える共演ライブを実施。同年10月9日には日本を含む3000以上もの世界各国の映画館で同日上映されたので、すでにその模様を目撃しているロックファンも少なくないだろう。この貴重なライブの様子が、開催から約1年を経てライブアルバムおよびDVD&Blu-rayとして正式リリースされるのだ。

アルバムタイトルに『S&M2』とあるように、メタリカがオーケストラと共演するのはこれが初めてではない。事の発端は映画音楽などを多数手がける鬼才、マイケル・ケイメンがアルバム『メタリカ』で「Nothing Eles Matters」のストリングス・アレンジを担当、その延長でマイケルがバンド側に企画を持ちかけ、マイケルがコンダクターとして参加したサンフランシスコ交響楽団との共演ライブが1999年4月21日、22日に実現したことに始まる。この模様は同年11月にライブアルバムおよび映像作品『S&M〜シンフォニー&メタリカ』としてリリースされ、アルバムは現在までにアメリカで600万枚超の売り上げを誇る大ヒット作となった。



「ハードロック/ヘヴィメタルとオーケストラの共演」は、すでに50年前から存在する表現のひとつ。古くはディープ・パープル『ディープ・パープル・アンド・ロイヤル・フィルハーモニック・オーケストラ』(1969年)が起源と言われており、そこから半世紀経った現在ではブリング・ミー・ザ・ホライズンやエヴァネッセンス、アルター・ブリッジといったモダンなサウンドを信条とするバンドから、ナイトウィッシュのようなシンフォニックメタル、セプティックフレッシュなどのデスメタルまで、多岐にわたるサブジャンルへと拡散しており、オーケストラの導入方法やバンドサウンドとのバランス含め、そのさじ加減はさまざまなものがある。

そんななかでメタリカが『S&M〜シンフォニー&メタリカ』で実践したのは、ヘヴィメタルのフォーマットにオーケストラを活かすこと。彼らは既存の楽曲/アレンジにオーケストラサウンドを乗せることで、楽曲の持つ壮大さやドラマチックさを増幅させることに成功した。その一方で、『ロード』『リロード』の延長線上にある新曲「No Leaf Clover」「-Human」も用意しており、この企画が単なる息抜きではなかったことも伺える。

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