異常な性支配でカルトのトップに君臨した男、その本当の素顔とは?

ネクセウムに入会していたころのサラ・エドモンソン氏(Courtesy of HBO)



ネクセウムがメンバーに約束したものは、コミュニティと帰属意識

闇のベールに包まれ、ボンテージSMに影響を受けた教義や焼き印の儀式が行われていたDOSですら、当初ネクセウムメンバーたちの目には比較的無害なものと映った。権力のある女性たちが自らの影響力を発揮するネットワークだ、という謳い文句は、トランプ氏が当選した大統領選挙の余波もあり、エドモンソン氏を魅了した。「世界にはとても恐ろしいこと、権力の転換が起きていると感じていたんです」と彼女は説明する。DOSは「善を伝える手段であり、皮肉にも世界の権力乱用に立ち向かう最善の方法だと言われていました。まさか組織そのものが権力乱用の巣窟だとは思いもしませんでした」

ネクセウムがメンバーに約束したもの、かつ今の世の中に枯渇しているものは、コミュニティと帰属意識だった。同組織は正式に解体しているものの、現在も活動が行われているらしい。アルバニー・タイムズユニオン紙の報道によれば、ラニエール被告の熱心な信奉者が分離組織「We Are As You」を結成し、被告が収監されている刑務所の外で踊っているという。「彼らはキースが聡明で、世間から誤解を受けているがゆえに、富と権力を持つ人々が世界で最も高貴な尊敬すべき人物に不利な証拠を仕組んだ、と考えているのです」とエドモンソン氏。「そういう思考回路はよくわかります。私自身もかつてそうでしたから」

『The Vow』はさらに、こうした権力とコミュニティの約束がいかに魅力的であるか、またラニエール被告の罠から解放された人々がどれほど骨を折って払拭しようとしているかを描いている。「私たちはみな、自分が高い知能を持つ人間だと考えています。『何をするべきか、自分が何者か、誰も指図することはできない。私は自分の行動をすべてコントロールしている。私のボスは自分自身だ』というように」とアメール監督は言う。「私たちは折に触れて、COVIDのこの時代はとくに、自分たちがいかに脆弱で、思っているよりもずっと弱いということを思い知らされます。答えの数よりも、問いの数のほうが多い状態なんです」

なかでもとくに胸をつまされるのが、ラニエール被告の元恋人の1人でネクセウムの幹部だったバーバラ・ボーシェイ氏とのインタビューだ。ボーシェイ氏は2009年に脱退して以来、10年以上も集団から民事訴訟や刑事訴訟の容赦ない攻撃を受け、本人いわく財産をすべて巻き上げられたという。ラニエール被告の公判中ボーシェイ氏は、ネクセウム報道の大半はプログラムのポジティブな面を無視している、と折に触れて主張した。だからこそ何千もの人々があれほど長く組織にとどまり、バレーボールに興じるプログレロック好きの自称「先駆者」の臆病者に忠誠を誓ったのだ、と。

彼女は『The Vow』でも同じ発言を繰り返し、自分の人生を狂わせたと言って憚らない人物を懐かしく思い出しながらこう語った。「彼は偉大な人物になることもできたでしょう」。ピアノを演奏するラニエール被告の映像を前に、彼女は涙をこらえながらこう言った。「たくさんの可能性に溢れていました。彼は善いこともしたんですよ。私も含め、数千人を救ったのです」

なんとも居心地の悪い瞬間だ。ネクセウムやラニエール被告だけでなく、善と悪全般に関する我々の既成概念が否定されたのだから。番組のこの時点で、ラニエール被告がボーシェイ氏の人生に混乱をもたらし、自らのエゴのために取り巻き連中を傷つけたことはすでに明らかになっている。それでもボーシェイ氏は、彼を否定することをかたくなに拒んでいる。少なくとも、グループが掲げる使命の一部、つまり簡単には善行ができない世の中に、善をもたらした点では、彼は評価されてしかるべきだと感じている。冷笑的な人々はこれを拒絶と呼び、楽観的な人々は希望と呼ぶだろう。『The Vow』は、本質的には希望に満ちたプロジェクトなのだ。

from Rolling Stone US

Translated by Akiko Kato

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