異常な性支配でカルトのトップに君臨した男、その本当の素顔とは?

「ESP講座」という名の洗脳の手口

番組のそもそものきっかけは、DOSに入会していたスター俳優キャサリン・オクセンバーグに注目したことから始まった。「最初は、集団の動きを記録しておくつもりでした。クレア(・ブロンフマン)がきっと訴えてくるだろうとわかっていたので、すべて映像に残しておきたかったんです。自衛手段でした」とエドモンソン氏。「それから徐々に『あら、これはおかしいわ、記録しておかなくちゃ』という風に変わっていったんです」。番組ではネクセウムの元メンバーが、実情を明るみにするべきか苦悩した挙句、2017年ニューヨーク・タイムズ紙に名乗り出て、連邦政府の介入を求めることを決意するまでが描かれている。



2019年、ラニエール被告と複数のネクセウム幹部はメキシコで逮捕された。だが、これまでHBOからメディアに公開された回にはその部分は触れられていない。その代わり1990年代初期、ラニエール被告が多角的マーケティング会社Consumers’ Bylineを運営して権力の味を覚えた時から、2017年にヴィンセント氏とエドモンソン氏がネクセウムでの自分たちの役回りを悟るまでを駆け足で追いかけている。こうした手法は、ラニエール被告の罠にかかった人々の身に起きた卑猥な出来事をつぶさに描写するのではなく、そもそもなぜ入会したのか、批判や早計な結論を交えずに描くことを最優先とした『The Vow』には効果的だった。「ネクセウムに入会した人全員に共通していえるのは、みな自分たちの生活を根本から変えられるはずだ、という大きな夢を抱いていたことです」とアメール監督は説明する。「それも素晴らしい夢を。夢を抱くことを批判すれば、彼らではなく私たちに非があるのではないでしょうか」

最初の数回では、これほど大勢の人々がラニエール被告の教えに惹かれた理由が入念に――ときに不快さを伴いながら――明らかにされていく。ESP講座の文言は、難解ではあるものの、科学的専門用語がちりばめられ、表向きは怪しげなニューエイジ思想よりもずっとまともに聞こえる。講座の有効性を熱っぽく語るネクセウムメンバーの映像も紹介されている。メンバーの1人マーク・エリオット氏は、ラニエール被告と共同創始者のナンシー・ザルツマンのおかげでトゥレット症候群が治った、と語る。番組では、メンバーがラニエール被告の思想の過激な一面を受け入れやすくするための素地づくりの過程も追っている。その一例が女性メンバーからなるグループJNESSや、男性メンバーからなるグループSociety of Protectorsだ。後者はラニエール被告の女性蔑視的な思想をメンバーに刷り込んでいた。

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Translated by Akiko Kato

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