ザ・バンド『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』知られざる10の真実

ザ・バンド『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』ジャケット画像


10. 同作はエリック・クラプトンにクリームの解散を決意させ、あるハードロックバンドの名前をインスパイアした

Big Pink Thinkキャンペーンに頼ることなく、『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』はロック界のスターたちの賞賛を集めた。スタジオでの実験的な作業に明け暮れ、ローファイ志向のアングラのミュージシャンたちの対極にあったビートルズでさえ、ルーツに根ざした彼らのアプローチには一目置いていた。同年9月に公開された「ヘイ・ジュード」のプロモーションビデオの終盤で、ポール・マッカートニーは「ザ・ウェイト」のアドリブ演奏を披露している。またジョージ・ハリスンは同年秋に、ディランとザ・バンドのメンバーに会うためにキャッツキルを訪れている。

しかし誰よりも『ビッグ・ピンク』に影響されたのは、ハリスンの友人でもあったエリック・クラプトンだった。当時世界で最も人気のあるバンドのひとつだったクリームが同年夏に行ったツアーは莫大な収益を上げていたが、実際には葛藤していた彼にとって、同作のブートレグのテープは心の拠り所となっていた。「あれが私に立ち止まる機会を与えてくれた」彼は2007年発表の自伝で同作についてそう語っている。「同時に、(クリームが抱えていた)問題を浮き彫りにしているように感じられた。カントリー、ジャズ、ブルース、ロックなどの要素を融合させながら、彼らは素晴らしい曲を書いていた。馬鹿げているし無駄だとは分かっていながら、私は彼らと自分たちを比較せずにはいられなかった。彼らはまさに、私が必死で求めていた指標のような存在だった。彼らの素晴らしいアルバムを聴けば聴くほど、自分たちが行き詰まっていること、そして自分がバンドから脱けたがっていることを自覚させられた」。『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』リリースから数カ月後の1968年7月に、彼はクリームの解散を発表する。

ハリソンと同様に、クラプトンもまたウッドストックを訪れているが、一番の目的は果たせないままだった。「本当は私をバンドに加えてくれと頼むつもりだったんだが、勇気がなくて言い出せなかった」1994年にザ・バンドがロックの殿堂入りを果たした際に、彼は壇上でそう語っている。彼らのニュアンスに満ちたプレイとコラボレーションを重んじるスタンスを、クラプトンは短命に終わったブラインド・フェイス、そしてデラニー&ボニーとの仕事で実践している。



クラプトンの方向転換のきっかけを生んだことについて、ロバートソンは複雑な思いを抱いていた。「『ビッグ・ピンク』の精巧さとレイドバックしたフィーリングは、彼に大きな影響を与えた」ロバートソンは『ザ・バンドの青春』にそう記している。「クリームでずっと大げさなアプローチを実践していたエリックは、何か違うことをやりたがっていた。すごく光栄ではあるけれど、個人的にはクリームの曲のいくつかは好きだったから、あのアルバムが彼らの解散に繋がったことについては複雑な気持ちだった」

『ビッグ・ピンク』はあるバンドを解散させた一方で、(少なくとも)1つのバンドの名前をインスパイアしている。1968年にスコットランドで結成されたハードロックバンドのナザレス(後に「ラブ・ハーツ」をヒットさせる)は、バンド名をロバートソン史上屈指の歌詞の一部から拝借している。「最初のリハーサルに使った場所でバンド名について話し合ったんだけど、合意には至らなかった」ヴォーカリストのダン・マッカファーティーは2014年にそう語っている。「出たばかりの『ザ・ウェイト』をみんなで聴いてた時に、ベーシストのピート・アグニューが『ナザレスっていうのはどうだ?』って言ったんだ。それが僕たちの始まりさ」



From Rolling Stone US.




『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』
(原題「ONCE WERE BROTHERS:ROBBIE ROBERTSON AND THE BAND」)

監督:ダニエル・ロアー 製作総指揮:マーティン・スコセッシ、ロン・ハワード
原案:「ロビー・ロバートソン自伝 ザ・バンドの青春」(ロビー・ロバートソン著、奥田祐士訳、DU BOOKS刊)
出演:ザ・バンド〈ロビー・ロバートソン、リック・ダンコ、リヴォン・ヘルム、ガース・ハドソン、リチャード・マニュエル〉、マーティン・スコセッシ、ボブ・ディラン、ブルース・スプリングスティーン、エリック・クラプトン、ピーター・ガブリエル、ジョージ・ハリスン、ロニー・ホーキンス、ヴァン・モリソン、タジ・マハール

2019年/カナダ、アメリカ/英語/カラー・モノクロ/アメリカンビスタ/5.1ch/101分
後援:カナダ大使館/字幕翻訳:菊地浩司/字幕監修:萩原健太
配給:彩プロ/宣伝:プレイタイム、スリーピン
©️Robbie Documentary Productions Inc. 2019

公式ホームページ:http://theband.ayapro.ne.jp/

Translated by Masaaki Yoshida

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