ザ・バンド『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』知られざる10の真実

ザ・バンド『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』ジャケット画像


4. ロビー・ロバートソンによる「チェスト・フィーバー」の歌詞はその場しのぎだった

「ザ・ウェイト」では複雑な感情と意味合いが交錯するが、ロバートソンによる曲がすべて同じというわけではない。「『チェスト・フィーバー』の歌詞の内容は覚えてないよ。というか、あの曲に歌詞があったかどうかさえ覚えていないんだ」彼は冗談交じりにBarney Hoskynsにそう語っている。「ガダ・ダ・ヴィダ」的な大言壮語と脂の乗った軍隊のマーチングバンドを組み合わせたかのような同曲は、ヘルムの記憶によるとアルバムの完成直前にジャムセッションから生まれたという。「『チェスト・フィーバー』の歌詞はリハーサルの場でロビーが適当につけたもので、結局そのまま使われた」彼は自伝にそう綴っている。「アルバム制作の最終局面で生まれてきたあの曲は、ちゃんと仕上げる機会もないままレコーディングされた」

翌年の夏に行われたウッドストックに出演したザ・バンドは、セットの冒頭で同曲を披露している。バッハの「トッカータとフーガ ニ短調」をベースにしたガース・ハドソンによる悪魔めいたロータリーオルガンのプレルードは、一瞬にして50万人のフラワーチルドレンたちの注意を引いた(後にライブの場で度々披露されるインスト曲「ザ・ジェネティック・メソッド」へと発展するそのパートについて、Hoskynsはハドソンの「19世紀の偉大な作曲家たちへの関心の表れ」だとしている)。「『チェスト・フィーバー』が好きだっていう人もいるけど、その理由は神のみぞ知るってところだね。あれは掴みどころのない曲だから」ロバートソンはそう語っている。「歌詞もオケもアレンジも、何ひとつとして明確な意味はないんだ」。それでも、同曲のファンは決して少なくない。ポール・シェーファーはビル・マーレイが2015年に『レイト・ショー・ウィズ・デイヴィッド・レターマン』に出演した際に、その登場シーンで同曲をプレイしている。




5. ガース・ハドソンによる「火の車」のキーボードサウンドはモールス信号がヒントになっている

他のメンバーよりも若干歳上であり、クラシック音楽の素養を備えていたガース・ハドソンは、彼らがザ・ホークスとして活動していた60年台前半には、週10ドルでメンバーたちにレッスンを行うなど、エキセントリックな講師のような存在だった。スケールの練習に嫌気がさしていたメンバーもいたが、彼らはほどなくしてハドソンのような存在が身近にいることは大きなメリットだと気付く。「ガースにあれこれと教えてもらえて幸運だった」ヘルムは自伝にそう綴っている。「キャデラックのラジオから流れる曲を聞いて、彼はそのコードを言い当てたりすることができた。複雑なコード構成も彼にとっては朝飯前で、彼のおかげで僕たちはなんだって弾けるようになった」。メンバーたちは演奏の腕も上げたが、ハドソンの知識と技術はバンドの作曲と編曲の才能を大きく開花させた。「僕たちがソングライターとして優れているとしたら、それはガースのバックグラウンドによる部分が大きい」ロバートソンは1982年にMusician誌にそう語っている。「僕たちの曲のコード構成やハーモニー、どの楽器がメロディのトップにきて、どの楽器がボトムを支えるのか、そういったことの大半はガースが決めていたんだ」

以降の10年間で、ハドソンはバンドの技術面全般を仕切るようになっていった。彼はLowery Festivalオルガンに様々な自作エフェクト(ワウワウやピッチベンドペダル等)や、開発されたばかりだったLeslie社の2段階速度切替が可能なロータリースピーカーキャビネットをかませた。1967年上旬にビッグ・ピンクで暮らし始めると、ハドソンはレコーディング機器のチョイスなど、率先して地下スタジオの構築に取り組んだ。彼のこだわりと飽くなき探究心は、『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』のスタジオセッションでも存分に発揮されている。「僕たちはガースのことをH.B.って呼んでた」ヘルムはそう話している。「Honey Boy(働きバチ)の略だよ。セッションを終えて僕たちが機材を片した後も、ガースはスタジオに残ってブラスや木管楽器を重ねたり、曲の魅力を引き出すためにあれこれと試し続けてた」



ボブ・ディランによる歌詞にリック・ダンコが曲をつけた「火の車」のレコーディングに際し、ハドソンは軍の放出物資店で買った古いセミオートマチックの電鍵をエレクトリックピアノのRMI Rock-Si-Chordに用いることで、スタッカートの効いた独特のキーボードサウンドを生み出した。「その電鍵には反復機能が付いてたんだ。どちらか一方に動かすとドットかダッシュがひとつ入力され、その逆方向に動かすとドットが反復入力されるんだ」彼は1983年12月にKeyboard Magazine誌にそう語っている。「小さな箱に取り付けた1/4インチのコンセントを介して、その電鍵をキーボードに繋いだ。あとは反復レートを設定すれば準備完了さ」。シグナルのオン/オフを繰り返すことで生まれる歯切れのいいパーカッシブなサウンドは、モールス信号を彷彿とさせた。「ガースが電鍵を叩いてあの音を出した時のことはよく覚えてるよ」ヘルムはそう語っている。

Translated by Masaaki Yoshida

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