ザ・バンド『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』知られざる10の真実

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3. 「ザ・ウェイト」は当初本命ではなく、アルバムに収録される予定ではなかった

1967年10月にヘルムがバンドに復帰したことを祝うように、ロバートソンは彼のヴォーカルスタイルを存分に生かした曲を書いた。「レヴォンにしか歌いこなせない曲を書こうと思った。僕は彼の実力をよく知ってたからね」ロバートソンはUncut誌にそう語っている。「彼は僕の親友だったし、彼に相応しい特別な曲を書きたかったんだ」。作業部屋でMartin D-28を手にした彼は、サウンドホール内に「Nazareth, Pennsylvania」(Martin社の工場の所在地)と記されたラベルを見つけた。聖書を思わせる地名とアメリカーナの聖地の並びは、ロバートソンのイマジネーションを刺激した。「あるストーリーテラーが住むアメリカの架空の町、そういうイメージが浮かんだんだ」彼は1987年にそう語っている。「その人物は、その町とそこにやって来ては去っていく人々の物語を紡いでいるんだ。僕自身は行ったことはないけど、その町が確かに存在することは誰もが知ってる」



徐々に形を成し始めたその曲は、聖書というよりも組織的な宗教への批評を超現実的なイメージによって表現する、スペインの映画監督ルイス・ブニュエルの作品を思わせた。「彼の作品の多くは、聖人は存在し得ないっていう事実を描いてる。『ビリディアナ』や『ナサリン』で、登場人物たちは善行に励もうとする」ロバートソンは後年にそう語っている。「『ザ・ウェイト』で歌っていることはそれと同じなんだ。ブニュエルの作品は宗教を思わせる部分が少なくないけど、実際には必ずしもそういう意味じゃない。彼の作品のキャラクターたちは善良な人間であろうと努めるんだけど、それは根本的に不可能なんだ」。ロバートソンはブニュエルの作品に登場する良心に満ちた人間像を、バンドの活動を通じて出会った特異な人々に投影しようとした。「Anna Lee」はヘルムの友人だったAnna Lee Amsdenのことであり、「Carmen」も彼の故郷に住む人物だという。また「Crazy Chester」について、ヘルムはこう語っている。「ファイエットビルに住む僕たち全員に共通の知人なんだけど、土曜になると無数のおもちゃの拳銃を腰に指して街中をパトロールするんだ。嘘みたいな話だけどね」。これらのキャラクターたちが登場する物語を、ロバートソンはごくわずかな時間で書き上げた。

「その翌日、僕は書き上げた曲をメンバーに聴かせて、アルバムに収録すべきかどうか意見を求めた」ロバートソンは自伝『ザ・バンドの青春』でそう綴っている。「彼らはあの曲が大きな可能性を秘めてるって言ってくれたけど、僕自身は他に選択肢がない場合のバックアップ程度に考えてた」。バンドはA&R Studio Aでのセッション時に、ふと思い出したかのように同曲をレコーディングした。「いろんなバージョンを録ったけど、どれも出来は今ひとつだった」彼は1995年にGuitar Player誌にそう語っている。「ある日スタジオで手持ち無沙汰だった時に、何となく『あの曲をもう一度録ってみるか』ってことになった」。ガース・ハドソンが安物のピアノを弾いたそのバージョンのアレンジは、ほぼ即興でありながら神がかった魅力を宿していた。「録り終えて聴き返した時には全員が驚いてた。確かな手応えがあったからね」

Translated by Masaaki Yoshida

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