Spotifyで生計立てるのは「夢のまた夢」 データから見える収入格差の実態

大多数のアーティストが「月額●●●●円」?

私が入手できた最新のSpotifyアーティストの公式人数は、2018年3月時点のもので、同社のニューヨーク株式市場の上場前に将来の投資家に向けて送った目論見書に記載されている。目論見書によると、「Spotifyは300万人以上のクリエイターやアーティストが既存のファンとつながり、新たなファンを獲得できる大舞台を提供します」

1日にSpotifyにアップロードされる楽曲が約4万曲であること、また最新の発表によればライバル会社のSoundCloudは2500万人のアーティストやクリエイターの楽曲をホストしていることを考えると、300万という数字はSpotifyが発表して以来、大きく膨れ上がっているものと予測できる。これを踏まえて、今現在Spotifyで「自らの作品で生活できる」パフォーマー、および生活できないでいるパフォーマーが実際に何人いるか、控えめな予測を立ててみよう。

Spotifyは案分計算でロイヤリティを支払っている。つまり、各会計期末にロイヤリティの総額を事実上1か所に集め、全ストリームにおける割合に応じてアーティストに分配される。ひとつの集団がストリームの90%を占めているとすれば、その集団にはロイヤリティ総額の90%が分配される。

Spotifyは大手レコード会社に、所属アーティストがストリーミングで得た純収入の52%を支払っている。この数字は2017年に当事者間で合意され、以来変更されていないはずだ。大手レコード会社がマーケットで大きな影響力をふるっていることからも、52%という水準を超える率でロイヤリティを得ているレーベルおよび/またはディストリビューターは皆無といって間違いないだろう(さらにSpotifyの収益の10~15%が、音楽出版社および作曲家に支払われる。これについては後述する)。

Spotifyの第2期決算によると、6月末までの3か月間で同社は18億9000万ユーロ(20億5000万ドル)の収入をあげた。したがってざっくり見積もれば、そのうちの52%にあたる10億7000万ドルが楽曲使用料としてレーベルやディストリビューターに支払われ、そこから各アーティストに取り分が配分される。

さて、4万3000人のアーティストがロイヤリティの90%を得ているとすれば、彼らは10億7000万ドルのうち9億6300万ドルを手にしていることになる。単純計算すれば、アーティスト1人あたり毎期平均2万2395ドルだ。

年に9万ドル前後の収入が得られるなら、Spotifyの「上位階層」に属するアーティストは「自らの作品で生活できるチャンス」を与えられている、といっていいだろう。ただし当然だが、この数字には裏がある。4万3000人のアーティストがいると言っても、実際には9億6300万ドルの大部分は世界的スーパースターが独占しているだろうからだ(個々のアーティストと結んだ契約により、レーベルやディストリビューターの取り分が大きいことは言うまでもない――中には相当額を持っていかれるケースもある)。


Spotifyで過去10年間に最も再生されたアーティスト、ドレイクの新曲「Laugh Now Cry Later」

次に、Spotifyの比較的貧しい部類に属する数百万人を見てみよう――4万3000人の「上位」グループには属さない、いうなれば「下位グループ」だ。

繰り返しになるが、Spotifyは2018年に300万人以上のクリエイターを抱えていた。おそらく今はこれよりも相当増えているだろう。だが控えめに300万人と見積もったとしても、世界のアーティストの98.6%――すなわち295万7000人――が現在Spotifyの「上位グループ」には属していない計算になる。

これらのアーティストは、ダニエル・エク氏のプラットフォームからいくら収入を得ているのか? 彼らは楽曲使用料としてSpotifyから10%(上位組の取り分90%を差し引いた分)を得ている。先ほどの概算によれば、第2期のロイヤリティの10%は1億700万ドルに相当する。これを296万人のアーティストに分配すれば、非上位組は今期1人あたり平均36ドル強しか稼げなかったことになる。

すなわち、毎月12ドル(約1280円)。

音楽出版の収入はもう少し複雑だ。ひとつには、作曲家はパフォーマーとしてクレジットされていないためだ。だが仮に、Spotifyの第2期の全世界収入の15%(3億800万ドル)が、すべて作曲家兼アーティストに渡ったと仮定しよう。それでも296万人の「下位グループ」が今期得られる額は、1人あたり平均およそ47ドルだ。

すなわち、月額たったの15ドル強(約1600円)。

Translated by Akiko Kato

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