殺されたセックス・セラピスト、ハリウッドの光と影に翻弄された人生|2020上半期ベスト5

ハーウィックさんの死後、10万人分の署名が寄せられた

2月15日未明の事件について、今も全容ははっきりしていない。だがロサンゼルス警察の声明によると、警察の家宅捜索で「2階には格闘とみられる形跡と、押し入った形跡が見つかった」そうだ。後日、近隣の監視カメラの映像には、全身黒づくめの白人男性が付近をうろついていた様子が映っていた。警察の声明によると、「最近被害者は元恋人を恐れていて……2週間前に元恋人を見かけたと話していたことが、刑事の調べて判明した」 。ハーウィックさんの訃報を聞いた瞬間、友人たちはXbizでの出来事が頭をよぎり、みな同じ思いに襲われた。「彼女は『もし私に何かあったら絶対そう(パースハウス)よ』とまで言っていたんです」とコシュランド氏。

パースハウスは土曜日に逮捕されたが、火曜夜に保釈され、その翌日に再逮捕された。ハーウィックさんの友人2人がローリングストーン誌に語ったところでは、再逮捕までの間に、ギタリストのデイヴ・ナヴァロ(2人の友人いわく、エイミーさんとも親しかった)が警察に連絡したそうだ。パースハウスはハーウィックさんと交際中、彼女がナヴァロと浮気していたと本気で信じているようだ、共通の友人から聞かされたらしい。ナヴァロは少なくとも1人の友人に、自分の身も危ないだろう、と語った。Instagramのストーリーにも、「パースハウスがまた誰かを狙うつもりだと警告されたため」、パースハウスを再逮捕して拘束するよう警察に連絡した、と述べた。だがナヴァロの広報担当者は弊誌の取材に対し、彼は「気がかりな友人」として、また家庭内暴力の被害者を支援する者として、ハースハウスを絶対に野放しにしないよう警察に通報したのだ、と述べた(ナヴァロの母親も、暴力的な元恋人の手で殺された)。さらに広報担当者は、ナヴァロとハーウィックさんが恋人関係だったという噂を否定した。「2人はもう長いこと連絡をとっていませんし、とくに親しい間柄でもありませんでした」。ロサンゼルス警察もコメントを控え、パースハウスの逮捕については声明の通りだ、とローリングストーン誌に語った。


Courtesy of Robert Coshland

愛する者を突然暴力で失った者はしばしば、悲劇を未然に防ぐ手だてがあったのでは、と自問する。実際にパースハウスが事件に関与していたのかは、裁判になるまで分からない。事件から数週間のうちに、エイミー・ハーウィックさんはDV被害者のシンボルとなったが、彼女の場合「もし、ああしていれば」という問いは、当人が置かれた状況ではなく、むしろ政策に向けられるべきだ、と友人たちは考えている。

例えば、もしカリフォルニア州の接近禁止命令が無期限だったら? もし、性犯罪者の場合と同じように、接近禁止命令を受けたストーカーにも登録義務制度があったら? もしストーカーの被害者が、接近禁止命令を受けた加害者と法廷で顔を合わせなくて済むとしたら? エイミーさんもパースハウスの接近禁止命令を延長する際、出廷せずに済んでいたとしたら?  し早い段階で行政が介入し、ストーカーやDV加害者の暴力がエスカレートするのを食い止めることができていたら? ハーウィックさんの友人らは、毎晩こうした問いで悶々と頭を悩ませている。「子どもが危険な状況に置かれた場合、ソーシャルワーカーや監視員が派遣され、調査が行なわれます」とチャベス氏。「なぜDVには同じように対応しないのでしょう?」

ハーウィックさんの事件後、家庭内暴力の被害者に対する法的保護の拡大を求める署名運動が行なわれ、10万人分の署名が寄せられた。署名運動は、州法1141号をはじめとする法律の可決を求めている。可決されれば、近親者から受ける暴力の定義が身体的暴力から拡大され、強制的支配や相手の自由を奪うことも懲罰の対象となり、最長1年の禁固刑が科せられる。ソーシャルメディア上では大勢の人々が#Justice4Amie(エイミーさんに正義を)というハッシュタグをつけて法改正を訴えている。「皆が立ち上がっています。(家庭内暴力や)ストーカーの被害者が殺されているのに、何の助けもない状況を嘆いています。法律改正で救える命はたくさんがあるのに」とは、被害者を支援する1人の弁護士のツイートだ。「このままでは、さらに大勢が命を落とし続けるでしょう」

だがこの間にも、エミリー・シアーズ氏のような被害者――近親者の暴力によるトラウマから回復するために、ハーウィックさんの助けが必要だった女性たち――は、今も恐怖におびえながら暮らしている。プロとして訓練を受け、法のもとで取りうる選択肢をすべて駆使したハーウィックさんの死が、何を意味するかをひしひしと感じながら。「こういうことが彼女にも起こるのなら――対処法もちゃんとわかっていて、こういう状況の人々を助ける訓練を受けた人にも起こりうるなら、女性たちはどう受け止めろというのでしょう? 彼女の患者だけでなく、すべての女性はどうすればいいのでしょう?」とシアーズ氏は言う。「救いの手を差し伸べていた人にもこんなことが起こるのなら、他の女性の身に何かが起きた時、安全な人は誰もいません。全員が危険にさらされているも同然です」


From Rolling Stone US.



2020年上半期「国際部門」ベスト5
1位:17歳の美少女、ビアンカ・デヴィンズの短い生涯と拡散された死
2位:新型コロナ、米ポルノ業界に迫る危機
3位:殺されたセックス・セラピスト、ハリウッドの光と影に翻弄された人生
4位:極悪非道なレイプ犯に「将来の可能性」はあるのか? 判事の裁定めぐる不条理
5位:90年代のニューヨークの夜はヤバかった 伝説的クラブの元経営者が追想

Translated by Akiko Kato

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