キース・リチャーズが語るアメリカと人種差別、ツェッペリン、ロックンロールの未来|2020上半期ベスト5

人種差別に思うこと、アメリカから得たもの

―1964年に初めてアメリカを訪れて以来、この国はどのように変わったと思いますか?

キース:まあ、最初に来たときに見た「黒人お断り(No Colored Here)」とか「白人専用(White Only)」の看板がなくなったのは喜ばしいことだ。でも、最近のファーガソンやボルチモアでの事件、それから先週起きた(2015年9月9日)ジェームズ・ブレークの誤認逮捕からも明らかなように、人種差別は書類にサインしただけでなくなるようなものじゃない。「はい、なくなりました!」とはいかないんだ。そんなに単純なことじゃない。法律の話じゃなくて、事実として差別がなくなるまでには確実に何世代もかかる。人間は人間でしかない。奇妙な生きものなんだ――アメリカは特にそうだ、自分がどこから来たのかわからないだろうから。「私はポーランド系、イタリア系……」というふうに、それぞれのルーツがある。みんな別々のところからやって来たんだ。それがこの国の素晴らしいところだでもある。チェロキーやアパッチといった人々は別だけどね。彼らは誰にも気にかけられず、「カジノでもやらせておけ」って扱いだから気の毒ではある。

とにかくこの国は移民で構成されていて、人々は集い、共に生きようとしている。俺はいつだって、アメリカは他者を受け入れることに寛容な国だと思っていた。今現在はちょっと怪しくなっているがね、「壁」を造りたいなんて人たちがいるから(笑)。この国の良さは壁がないことだと思っていたのに。それにわかるだろ、アメリカ自体がすごい実験でもあるんだ。歴史的に見ると、アメリカの成功は一時的なものだ。数百年なんて一瞬だからね。1450年に建てられたイギリスの家と比べると特にそう思う。アインシュタインは、その点を言い当てている。時間は相対的なものだ。


1964年6月26日、イギリスの音楽番組「レディ・ステディ・ゴー」のセットでのキース・リチャーズ(Photo by Peter Francis/Redferns)

―アメリカから得たものは?

キース:アメリカからもらった最高のプレゼントは音楽だ。移民だらけのハイブリッド社会にはいろんなものが集まって来る。アメリカの真の素晴らしさは、それらを許容できるところにあると思う。アメリカは人々に音楽をもたらした。世界中の人々がアメリカの音楽を聴いている。録音技術のおかげもあるかもしれない。録音っていうのは素晴らしい技術で、ここの音と向こうの音を同時に捕えられる。だが、それだけじゃない。その時に偶然起きたことや、感情、涙や笑い声、その他全てを記録し、別の場所に届けることができる。そのおかげでアメリカが大好きになった。チューイングガムをもらったことはないが、アメリカは俺に音楽をくれた。俺はすっかり魅了されたんだ。

Translated by Rolling Stone Japan

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