BLMで再注目、名曲「奇妙な果実」の歴史的背景と今こそ学ぶべきメッセージ

ビリー・ホリデイとラプソディ(Photo by Paul Hoeffler/Redferns/Getty Images, Dave Kotinsky/Getty Images)

ビリー・ホリデイが1939年に録音した「奇妙な果実」(原題:Strange Fruit)は、ニーナ・シモンが歌い継ぎ、カニエ・ウェストやラプソディなどにサンプリングされてきた。さらに、反リンチを訴えるアメリカ史上屈指のプロテストソングは、ブラック・ライヴズ・マターの時代に新たな重要性を帯びだしている。その背景にあるものとは?


80年前の曲が「いまの時代」を物語っている

昨年、ノース・キャロライナのラッパー、ラプソディは自分のニューアルバム『イヴ』の導入にあたるトラックを探していた。同作は黒人女性の歴史と力にまつわるコンセプトアルバムだ。プロデューサーが提案したのは、彼女があまり深くは知らない曲だった。ニーナ・シモンによる1965年版の「奇妙な果実」。南部での黒人に対するリンチを簡潔に、しかし生々しく描いた「奇妙な果実」は、アメリカの最も早い時期の、最もショッキングなプロテストソングのひとつで、この国の歴史に刻まれた、黒人の人びとに対する幾千もの人種差別的なテロ行為へと注意を惹きつけることとなった。そのヴァースのひとつは、こんなふうに歌われる。

“黒人の亡骸が南部の風に揺れている/奇妙な果実がポプラの木々にぶらさがる/気高き南部ののどかな眺め/飛び出した目玉にねじれた口元”

「聞いてすぐ、これをイントロにすべきだとわかった」ラプソディは語る。彼女は「ニーナ」という曲で、この曲のサンプルを中心的に用いた。「私たちの歴史のなかでも、あの時期のことについて聞くのにずっと興味があった。それに、私たちが暮らすこの現実を語るアーティストたちにも惹かれてきた。80年も経っているのに、あの曲はいまの時代を物語っている。91語もあれば十分なんだ。ほかにまだ言うことある?」



2020年、ブラック・ライヴズ・マターの抗議運動が全国的なヘッドラインに舞い戻ると共に、80年以上も前に書かれたある曲が驚くほどの新たな重要性を帯びだした。ローリングストーン誌のチャートにも協賛するデータ分析会社、Alpha Data社によれば、今年の上半期、ビリー・ホリデイによる1939年録音の「奇妙な果実」――最初の、そして最も有名なバージョンだ――は2百万回以上ストリーミング再生されたという。先月、SiriusXMでの番組内で、ブルース・スプリングスティーンは「奇妙な果実」をプロテストソングのプレイリスト内の一曲に選び、またあるインタビューではこの曲を「素晴らしい音楽作品で、時代のずっと先を行っていた。未だに今日の議論の深い、深い、とても深い急所を突いている」と評した。

ベテランR&Bシンガーのベティ・ラヴェットは、警察によるジョージ・フロイド殺害を受けて「奇妙な果実」の新録カバーを繰り上げリリースした。「一日中あのニュースを見ていたら、いつしか『非武装の黒人男性』から『リンチ』へと表現が変わりはじめました」先月、彼女はローリングストーン誌に語ってくれた。「だからレコード会社に電話して、私たちはまるでこの物語を何度も何度も何度も語り続けているみたいだって話したんです」




映画監督のリー・ダニエルズは、次回作でこの曲にまつわる物語を改めて語り直すつもりだ。タイトルは『The United States Vs. Billie Holiday』で、パラマウント・ピクチャーズによる配給が決まったところだ。ホリデイを演じるのはアンドラ・デイ。女優としてのみならず、R&Bアーティストとしてのキャリアでも知られている。3年前、デイも「奇妙な果実」をカバーした。大量投獄を終わらせるために活動する非営利団体、イコール・ジャスティス・イニシアチヴへの関心を高めるために制作されたものだ(ホリデイは別の新作ドキュメンタリーの題材にもなっていて、ジェイムス・アースキンの『Billie』は11月に公開される)。

「『奇妙な果実』はいまなお重要な曲。なぜなら黒人たちは今なおリンチされ続けているのだから」デイは語る。「南部の風だけじゃない。もっと洗練されたかたちになってる。至るところで目に入るでしょう」

Translated by imdkm

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