Facebook広告ボイコット運動、音楽業界の大手企業が賛同しない理由

Facebookとの複雑なライセンス契約を結んでいる企業もあるが、音楽業界が広告ボイコット運動への参加を拒否したり賛同できない背景には、移り気なリスナーをつなぎ止めるために彼らがどれほどソーシャルメディアに頼っているかという事情がある。しかし大手音楽企業のボイコット運動に対する沈黙は、特に注目に値する。なぜなら彼らのほとんどは、ジョージ・フロイド死亡事件後に盛り上がった社会正義を訴える運動を支持する公式声明を出したり、場合によっては多額の資金援助を実施したりしているのだ。音楽業界の大手企業は、注意深く言葉を選んで声明を出したり資金援助を申し出たりすることには積極的だが、広告の力を使ってポジティブな変化を起こすことには消極的に思える。

ユニバーサルミュージックグループは声明の中で、Stop Hate for Profit運動が提起する問題は「深刻かつ重要で、我々は所属アーティストがファンとの交流を行うためにどのソーシャルメディアのプラットフォームを選択しようが、彼らの意見を尊重しリスペクトしている。もちろん我々は引き続き、広告表示に関するアーティストからのリクエストには応えていく」と表明した。

さらに「根本的には、今起きている問題は正にプラットフォームの説明責任の問題であり、彼ら独自のコミュニティー基準を確立してポリシーや方法論を改善し、発展するソーシャルメディアの世界における理想的なスタンダードを目指すべきだ」と声明は続く。「我々は今後も、最近プラットフォームが表明した新たな基準が遵守されているかを監視し続け、アーティストのためになるような運営を働きかけていく」とユニバーサルミュージックは述べた。

ソニーミュージックとワーナーミュージックグループは、自社の広告掲載方法に関するコメントを拒否した。SpotifyとTikTokにはコメントを求めたが回答がない。

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ヘイトスピーチやフェイクニュースに関するFacebookのポリシーを問題視する声は、遅くとも2016年の米大統領選挙からますます顕著になってきた。Facebookの収入の98%以上を占める広告掲載をボイコットすることで、プラットフォームのポリシーを変えさせようという動きは、6月初旬から本格化している。ちょうどその頃、人々をミスリードしたり暴力を助長するようなトランプ大統領による投稿を、Facebookが放置したことを問題視されていた。その後Stop Hate for Profit運動は、ベライゾン、フォード、ユニリーバ、ファイザー、アディダスなど、さまざまな業界の多くの企業に広まっている。

音楽業界における賛同者は、ニンジャ・チューン、アンジュナビーツ、クッキング・ヴァイナル、エピタフ・レコードなど主に独立系のレーベルに限られる。Stop Hate for Profitのウェブサイトには、コーチ・ギター・ストラップ、グルーン・ギターズ、ナショナル・レコーディングLLC(ミルウォーキーのスタジオ)らわずかな音楽関連企業と、ミュージシャンとしては唯一クロノス・クァルテットが名を連ねている。

「Facebookをはじめとするソーシャルメディアサイトに関する残念な事実は、彼らのアルゴリズムが陰謀説や物騒なフェイクニュースといった、どのようなコンテンツが最も不快で人々を憤慨させるゴミなのかを学習していることだ」と言うのは、エレクトロニック・ミュージックの世界で長年活動を続けるアバヴ&ビヨンドのトニー・マクギネスだ。「誰にとってもネガティブな結果しかもたらさない。」

「ソーシャルメディアが人間性の形成にどれほど多くのポジティブな影響を与えているのかは計り知れない。しかし時には、我々が嫌悪する考え方を反映したり拡散しているように感じる」ニンジャ・チューン

グルーン・ギターのエリック・ニューウェル社長も、同様の理由でStop Hate for Profitに賛同する。「Facebookは自社のサービスを通じたヘイトスピーチの拡散に、ほとんど対応しなかった」と彼は言う。「我々は顧客を第一に考えている。ヘイトを拡散しハラスメントを容認するような組織に資金を出したいとは思わない。」

Translated by Shoko Natori

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