ドミニク・ファイク、「Z世代のリアル」を体現するポップスターの憂鬱

ドミニク・ファイクはポップスターの新たな階級に属している——トレヴァー・ダニエル、ベアフェイス、ポスト・マローンのように。本質的にはR&Bシンガーであり、予算も人より潤沢だ。アフリカン・アメリカンでありフィリピン系でもあるアーティストとして、こうしたポップスターの一群に属するファイクは不安定な状況におかれている。彼の才能についての業界の語り口は「数十年にひとりの逸材」型の凡庸さに浸かりきっていて、それは人種的なあいまいさと関係しているように思える。そうした曖昧さは容易にマーケティングに用いられうるが、ブレント・ファイアズやジヴェオンのような人たちのそれほど即座に通用するものとも言い切れない。それによって、ファイクはパスティーシュによるプロジェクトをつくる余地を得た。自分自身のストーリーに少しでも関わりがあると感じられたさまざまなインスピレーションの間を駆け抜けるようなプロジェクトだ。とはいえ、ブロックハンプトンのようにラップできるからといって、あるいは『ブロンド』期のフランク・オーシャンのごとく甲高く声のピッチを挙げられるからといって、そうしなければならないなんていう道理はない。業界の構造的な問題について個人を批判したところで、そんなものはいつだって、無駄に終わるのだが。

アルバムも半分を少しすぎると、ファイクの「ヴァイパイア」に至る。そこでは珍しく彼の悲嘆、自責、愚かさがうまく組み合わさり、部分の総和以上のなにかになっている。この曲は基本的にアレッシア・カーラ「ヒア」の構図で、ヴァンパイアのメタファーが取り入れられたものだ。赤ワインはおそらく血を意味し、誰もがコカインをキメている。この試みはうまくいっている。いつもの堅苦しい進行を離れて、ファイクはラジオ向きのスター(もしくは、未確認のジャスティン・ビーバーのデモ曲の受取人)という役割を存分に楽しんでいる。それは明晰な一瞬であり、そこにひとりのポップスターが現れる。



木曜現在(2020年8月6日)、『ワット・クッド・ポッシブリー・ゴー・ロング』のストリーミング再生回数は8,872,752回、そこに3,554枚分のアルバムセールスも加わり、ローリングストーン誌チャートTOP200の30位に登場した。多くの新人にとってこの数字は成功といっていいだろうが、ファイクはもはや並の新人とは扱われないアーティストだ。数百万ドル単位の契約が噂されることもあって、彼はもはや新人とは異なる商業圏に属しており、表彰台のうえに押し上げられている。これは彼を売ろうとするレコードレーベルにとっては有益だろうが、真価がまだ問われているところの若いアーティストにとっては有害な状況だ。

よかれあしかれ、これが現時点でファイクをとりまくストーリーだ。コロンビアの支えもあり、ヒットは生まれるだろう。彼は世界を股にかける次世代のクロスオーバーなスターに十分なりうる。このプロジェクトを批評的にどうこう評価するなんていうのが無意味になるほどに。しかし彼はまだそこに至っていないし、彼の初となるフルレングス・プロジェクトは、まるで数多ある義務のひとつをこなしたみたいに響く。それこそが、彼がおそらく自覚しているよりもずっと重要さを増している原因なのだ。彼はついに、ずっと望み続けたキャリアを手に入れたが、それも夢のような仕事とて結局は労働に過ぎない、と気づくに至ったというだけの話だ。ストリーミング時代のスターも、タイムカードを押さなければならないのだ。




ドミニク・ファイク
『What Could Possibly Go Wrong | ワット・クッド・ポッシブリー・ゴー・ロング』
発売中
購入・再生リンク:https://lnk.to/DominFikeNewAL


SUPERSONIC(スーパーソニック)
[東京]2020年9月19日(土)・ 9月20日(日)・ 9月21日(月・祝)
*ドミニク・ファイクの出演は9月21日
会場:ZOZOマリンスタジアム&幕張海浜公園特設会場
公式サイト:https://supersonic2020.com/

Translated by imdkm

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