ドミニク・ファイク、「Z世代のリアル」を体現するポップスターの憂鬱

ドミニク・ファイク、2019年撮影(Photo by Graham Denholm/Getty Images)

目下ポップスターへの道を邁進し、ジャンルレスなデビュー作『ワット・クッド・ポッシブリー・ゴー・ロング』を先頃リリース。Z世代を代表するアーティストとして数百万ドル規模の契約も噂されるドミニク・ファイク。しかし彼の音楽は、そんな全てに消え失せてほしいようにも聴こえる——スーパーソニックでの初来日を控える、1995年生まれのホープに迫った。

『ワット・クッド・ポッシブリー・ゴー・ロング』は、評価の割れるアルバムではないはずだった。音楽産業の寵児であるドミニク・ファイクによる最初のフルレングスはごく味気なく当たり障りのないもので、批評的にこきおろしたところで的を外してしまいそうだ。2018年に頭角を現して以来、ファイクにまつわるストーリーは、新たな業界のレジェンドと言いうるまでに確固たるものとなった。彼は、フロリダでの自宅監禁中に地味なEPを録音し、その後2017年に楽曲をまとめてリリースした。するとまたたく間に、コロンビアレコードと3〜400万ドルの契約を結んだという噂が飛び交いだした。いきおい、当時22歳のファイクはSpotifyのプレイリストの常連になり、「3ナイツ」や「ベイビードール」といった楽曲によって数百万再生を勝ち取った。次いで、メディアでもどんどん取り上げられるようになった——ニューヨーク・タイムズ、ニューヨーカー、フェイダー、コンプレックスなどだ。いろんな業界がこぞって契約を勝ち取ろうと、共同契約にありつこうと、あるいはネクスト・ポスト・マローンについて書こうと躍起になっているかのようだった。ファイクの躍進は必然のようでも、仕組まれたようにも思えた。

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そのおかげでファイクは安易な批判の対象となった。あの恐ろしい「インダストリー・プラント(訳注:業界が仕掛けた“捏造された人気ではないか”という疑い)」の噂が息を吹き返したのだ。しかし、色んな意味で、なぜみんな(業界の有力者を含め)が彼に惹かれるのかはわかりやすい。彼はリスクの少ない反逆者であって、インスタ映えする顔立ちに、フェイスタトゥーは郊外に住むお母さんでも見逃せる程度。音楽的に言えば、彼のサウンドは錯綜している——サウンドはウェーヴスのように歪み、ケヴィン・アブストラクトのように率直で伝記的、ジャック・ジョンソンみたいなビーチ好きのヴァイブスもあるし、フランク・オーシャンのごとくリリカルな不合理さも持ち合わせ、さらに前述したようにポスト・マローンのようなムーディなメロディもある——が、しかし実際、ストリーミングの時代に最適なイージーリスニングのようにさえ聴こえる。『ワット・クッド・ポッシブリー・ゴー・ロング』に収録されている楽曲は、あくまで表面上は、すぐに好きになれそうなものばかりだ。



問題は、こうした無害な楽曲をつくっているシンガーが、自分の売っている商品に大して熱心でもなさそうだということだ。『ワット・クッド・ポッシブリー・ゴー・ロング』を通じて、ファイクは自らのペルソナを攻撃しようとする。オーディエンスにその隙を与える前にだ。その最たる例が「キャンセル・ミー」。彼は単刀直入にこう歌う。「みんな俺をキャンセルしてくれたらいい」

先手を打って自ら自分をキャンセルしようという彼の考えは理にかなっている。家族と一緒に過ごしたい、隠喩的な意味でのマスクを外したい、ひっきりなしに鳴り続ける電話にはうんざりだし、ジミー・キンメルの番組に出るのもだるい。大半のアーティストが2ndアルバムになってから名声について愚痴をこぼすものだが、ファイクはそうした段階をすっ飛ばしてしまい、セレブリティであることについて歌う用意がもうできているのだ。その歌いぶりはまるで、それが想像しうる最悪の仕事であるかのようだ。

「スーパースター・シット」のような曲で、彼はキャリアが導く不安をいっそう強調する。表向きはラヴソングなのに、コーラスで彼はこんなラインを歌うのだ。「俺たちは薄っぺらに広がっていく」。彼がこのラインでもまだ人間関係に焦点をあてているのか、それとも、百万ドル単位の契約に縛られて、突然その埋め合わせを強いられている同世代のSoundCloud出身シンガーたちについて書いているのかはよくわからない。インターネットの申し子として、ファイクは自分のナラティヴをキュレーションし転覆させるのに独自のやり方で適応している。しかし、オーディエンスに言われてしまう前に自分でオチを言ったって、そのおかげでジョークがもっと面白くなるなんてことはない。

Translated by imdkm

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