有料配信ライブ時代の到来 課金型オンラインライブの成功者が語る

K-POPを代表するスーパーアイドルグループBTSによる有料オンラインライブBANG BANG CONは、新型コロナ時代でもっとも成功したオンライン公演のひとつとなった。カントリーシンガーのティム・マグロウの有料オンラインライブは、8月21日に開催予定。 Bauzen/Getty Images; James Gourley/WireImage

BTSをはじめ有料オンラインライブがもたらす莫大な利益によって、新しいスタートアップ会社が音楽業界のトップに躍り出る一方、レコード会社やエージェントは適応方法を求めて奔走する。果たして配信ライブは、音楽ライブに取って代わるのだろうか? また、この状況は、いつまで続くのだろうか?

アダム・ウェイナーは、有料配信のチケットを購入した165人のファンのために下着姿でカナダのハードコアパンクバンドSNFUの「Time to Buy a Futon」を歌いながら腕立て伏せを終えたところだった。

「うわー! すっごい汗!」と米ペンシルベニア州最大の都市フィラデルフィアを拠点に活動するロックバンドLow Cut Connieのソングライター兼フロントマンを務めるウェイナーは、カメラに向かって言う。そう言いながら、ウェイナーはベルベットと思しき赤いローブを羽織り、リビングルームに置かれたピアノの椅子に座った。

週に一度のライブ配信番組『Tough Cookies』をウェイナーが始めたのは、新型コロナの爆発的感染が広がりはじめた頃だ。そして先週木曜日の配信は、有料に切り替えてから2度目のものだった。ウェイナーのファンたちは惜しみなく寄付をする一方、ライブ配信を視聴するために喜んでチケット代を直接ウェイナーに払うと言ってくれた。

新型コロナのパンデミックの到来とともに、見掛け倒しの空っぽなものにすぎないというライブ配信の負のイメージは払拭され、ライブ配信はデジタル時代のプレミアム音楽体験としての地位を確立した。配信プラットフォームが成熟するにつれて、外出禁止期間中に数多く見受けられたスマホ撮影による質の低い無料配信の需要も低下。アーティストたちは、この状況を好機ととらえはじめている。ウェイナーはPatreonという会員制サブスクリプション型クラウドファンディング経由で番組を配信している。アカウントを立ち上げた数日後、購読者は300人になった。自宅からの配信にかかる諸経費はツアー活動と比べてはるかに低いため、ウェイナーのバンドははやくもツアーと同じ利益率を達成することができた。

「もはやライブ配信は、単なるその場しのぎの対策なんかじゃない」とウェイナーは本誌に語った。「僕らは、ライブ配信の需要がますます高まるのを目の当たりにしてきた。間違いなく、僕は今後もずっとライブ配信を続けるつもりさ。たとえ、ツアー活動が再開されてもね。『Tough Cookie』は、僕にとって芸術面ですごく刺激になっているし、これはパンデミックに限ったことじゃないけど、芸術の無数の可能性を示してくれている。いまの音楽業界が僕らにもたらした損失を考えると悲しくなるけど、いまは未来に目を向けているんだ。それに、まさにこれが未来だと言えるような感触もつかめてきた」。

ウェイナーは、めぐりめぐって新しいコンセプトに辿りついた数多くのアーティストのひとりだ。「音楽業界は、中身のないマーケティングのからくりのようなものとしてライブ配信を見てきました。それに、こうしたイベントのために人々が進んで財布の紐を緩めるという現実を認めるのが怖かったのかもしれません」と動画ストリーミング会社MaestroのCEOを務めるアリ・エヴァンズ氏は本誌に語った。「新型コロナウイルスは、こうした動きを加速させました。現在のプロダクションは、根本的には従来のそれと大きく変わっていません。大金を払うという考え方は、常に存在していましたから。いまでは、何がなんでも収入源が必要なレコード会社やアーティストが積極的にチャレンジする姿勢を見せています」。

Maestroはホワイトラベル(訳注:ある企業が独自で開発した製品やサービスをほかの会社が自分のブランドとして販売できる権利)企業である。そのため、縁の下の力持ちとしてクライアントに配信プラットフォームを提供し続けてきた。今年の初めの月ごとのイベント実績が50本だったのに対し、いまでは1カ月に200本のイベントを開催している。2015創業の同社の収益は、前年の同時期と比べて倍にアップした。ケイティ・ペリーが最近始めたライブ配信番組『Smile Sunday』や、先日ケイン・ブラウンをフィーチャーしたPandoraの新しいオンラインライブ・シリーズ(無料だが、複数の企業スポンサーを持つ)などを手がけているのも同社だ。そしてMaestroが現時点で手がけたイベントのなかでもっとも話題になっているのが、パートナーシップ契約を結んだカントリーシンガーのティム・マグロウのニューアルバムのリリースを祝して行われる有料オンラインライブHere On Earthだ。マグロウのイベントは、8月21日にオンエアされる。

Translated by Shoko Natori

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