ビヨンセの革新的大作『ブラック・イズ・キング』を知るための5つのポイント

3. ハイライトはビヨンセ本人が登場する「Mood 4 Eva」のビデオ

『ブラック・イズ・キング』のハイライトというべき瞬間を決めるのは困難だが(「Already」「My Power」も捨てがたい)、最もビヨンセらしさに満ちた場面は「Mood 4 Eva」のシーケンスだろう。同映像の舞台であるゴージャスなマンションは、聖母子像になぞらえたビヨンセと彼女の子供たちを描いた巨大な絵画を含む、パン・アフリカンのアートと彫刻で彩られている。彼女はこれまでにも自身の富と成功を堂々と見せつけてきたが、ここでは彼女と夫のジェイ・Zが、2018年発表のジョイントアルバム『エヴリシング・イズ・ラヴ』にも通じるウィニングランのような祝祭感を演出している。黒人のみで構成されたシンクロナイズドスイミングのチーム、高級服に身を包んだ何十人ものエキストラ、年老いた白人の執事、そしてビヨンセの母親のミス・ティナ・ローソン等が、庭園の中央で優雅なティーパーティーに興じる(2月発行のウォール・ストリート・ジャーナルの記事で、ローソンは自身のアートコレクションの一部を今作の撮影用に貸与したと明かしている)。ポップミュージック界随一の働き者である夫婦がソファに腰掛け、目を剥くほど豪華なディナーを楽しんでいる様子はどこか現実離れしているが、それが今作で最も印象的な瞬間であることは確かだ。


4. 豪華キャストと予想外のゲストたち

『ザ・ギフト』ではアメリカとアフリカ(主にナイジェリア)のポップ/ヒップホップ界のスターたちが集結していたが、ファレル・ウィリアムスやティワ・サヴェージ、Shatta Wale、ティエラ・ワック、イェミ・アラデ、ジェシー・レイエズ等、同作に参加したコラボレーターたちの多くが今作には登場している。しかし何より特筆すべきなのは、ビヨンセとブルー・アイヴィーがファッション界のアイコンであるナオミ・キャンベル、女優のルピタ・ニョンゴ、そして元デスティニーズ・チャイルドのケリー・ローランドと交流する「Brown Skin Girl」のシーケンスだろう。それはビヨンセがローランドとミシェル・ウィリアムズ、そして妹のソランジュと共演した2018年のコーチェラを思い起こさせる。今や伝説となったそのステージは、美しくたくましい黒人女性というイメージと、彼女自身の公私両面におけるレガシーを可視化した。


5. 痛切な思いと献身が描かれるラストシーン

ビヨンセは今作を、夫であるジェイ・Zとの間に2017年7月に生まれたサー・カーター(ルミは双子のきょうだい)に捧げている。「愛する息子、サー・カーターに捧げる / そして私たちすべての息子と娘たちへ / 太陽と月があなたたちを照らす / あなたたちこそが王国の命運を握っているの」作品全体を通じ、ビヨンセは『ライオン・キング』の美しい物語を、彼らの祖先に敬意を表し、歴史から学んだことを次の世代に引き継がせていくという、黒人たちのレガシーのメッセージに重ね合わせている。

同じくアフリカを舞台とする物語で、90年代にはアニメーションミュージカルが制作された『プリンス・オブ・エジプト』を思わせる「Otherside」のシーケンスでは、そのメッセージがビヨンセ自身の姿に投影されている。聖書に登場するモーセのように、ビヨンセは息子の命を救うべく、彼を入れた籠を川の下流に向かって放つ。その先に何が待ち受けているかは知るよしもない。「土埃にまみれた子供、あなたは母なる川へと戻っていく」彼女はそう語りかける。「あなたのルーツと物語は生まれ変わるの」

Translated by Masaaki Yoshida

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