ビヨンセの革新的大作『ブラック・イズ・キング』を知るための5つのポイント

1. パン・アフリカン・コラージュ

『ブラック・イズ・キング』の中盤には、パン・アフリカの旗を構成する黒・赤・緑の3色で彩られたアメリカ国旗を掲げる黒人男性の集団が登場する。黒人のプライド、そしてアフリカン・ディアスポラという観点から見たルーツを祝福するそのシーンは、今作のコンセプトを象徴していると言っていい。魅力的な衣装に身を包んだ何百人ものダンサーやシンガーを含むエキストラたちは、ナイジェリアにおけるアフロ・フュージョンやダンスホールから、Himba族の人々の体や髪に見られるトライバルなペインティングまで、アフリカの新旧のサブカルチャーの豊かさを物語る存在だ。西アフリカおよび南アフリカで撮影が行われた本作のモノローグおよびインタールードには、ズールー語やコサ語を含むアフリカの言語が複数用いられている。

先月『ブラック・イズ・キング』の完成がアナウンスされた時、今作がアフリカに対するステレオタイプの拡散や、アフリカの文化や民族性の画一化を促す可能性があるとして、ビヨンセは批判に晒された。『レモネード』がジョージア州およびサウスカロライナ州のガラ人の文化にインスパイアされていたように、アイディアおよび理想としてのアフリカを映し出す『ブラック・イズ・キング』は、現地の住民やカルチャーに敬意を払いつつ、アフリカを世界中の黒人たちの約束の地として描いている。「私たちの祖先は、私たち自身の姿を通じて、私たちを導いてくれる / 屈折した光」ナレーションでそう語るビヨンセは、やがてこう警告する。「自身の姿が見えないことに慣れてしまったあなたはこう思うだろう / 私は本当に存在しているのだろうか?」




2. 本作には『ライオン・キング』のストーリーと『ザ・ギフト』の全曲が登場するが、順序は一部変更されている

『ブラック・イズ・キング』の冒頭から60分前後までは、『ライオン・キング』の物語を抽象化したような内容となっている。若きシンバの象徴である王族の一家に生まれたアフリカの少年は、蛇の皮を被った邪悪な敵によって排除される。進むべき道を見失ったまま成長したその青年は、王の座を自らの手で取り戻さなくてはならない。

『ザ・ギフト』のトラックリストは『ライオン・キング』のストーリーにほぼ沿っており(2019年公開の映画版のインタールードでのナレーションが時折挿入される)、今作ではその全曲が使用されているが、その順序は一部変更されている。最後から2曲めに配置されていた070 Shakeとジェシー・レイエズが気まぐれな悪役を描く「Scar」は、本ヴィジュアル・アルバムでは序盤の「獣たち」(今作ではバイクに置き換えられている)が暴走するシーンで用いられている。一方でバーナ・ボーイの「Ja Are E」は、大人になったシンバが呑気に通りをうろつく場面へと移されている。

『ブラック・イズ・キング』の終盤では、シンバのストーリーテリングと『ザ・ギフト』のインタールードが、アフリカ系アメリカ人とアフリカ人へのインタビューに置き換えられている。『レモネード』でもそうだったが、その部分では黒人の男性や女性がそれぞれの人生で経験した社会的抑圧について語り、コミュニティの一員として生きることで彼らは「王になる」と主張する。

Translated by Masaaki Yoshida

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