音楽でつながる新たな手段、遠隔合奏システム「SYNCROOM」開発秘話

オンライン遠隔合奏アプリケーション「SYNCROOM」

連載企画「コロナ時代のオンラインでつながるライブ・ミュージック」第二回。オンライン遠隔合奏アプリケーション「SYNCROOM」はどのようにして生まれたのか?

コロナ時代になって、ライヴ会場がクラスターの発生源だという報道が相次いだため、音楽アーティストが集まって演奏する音楽活動そのものが、自粛せざるを得なくなってしまった。他のプレイヤーと合奏ができなくなったのは、プロだけに限らない。ライヴもできなければ、スタジオに集まって練習もできなくなってしまったのだ。そんなコロナ下の4月9日、ヤマハはリモート合奏が楽しめるオンライン遠隔合奏アプリケーション「SYNCROOM」を正式公開することを発表。このSYNCROOMに先行して、ほぼ同等の機能を持つベータ版サービス「NETDUETTO β2 」がすでに公開中であることもアナウンスした。そして、6月29日にはSYNCROOMのWindows/mac OS版を正式公開。このサービスは、インターネット回線を利用して、最大5拠点のユーザー同士でリモート合奏が楽しめるもので、ヤマハの低遅延音声データ伝送技術によって、オーディオデータの双方向送受信の遅れを極小化し、遠隔地間でも違和感がほとんど生じない、快適なオンラインセッションができるというもの。

今回、正式版には新たにリバーブ機能やメトロノーム機能と録音機能が追加され、ミックスされたマスターアウトをWAVで録音できるようになった。さらに、Android版アプリケーションのベータ版も公開されることとなった。企画・マーケティング担当の野口真生さん、北原英里香さんに話を聞いた。

【画像】オンラインでのセッションが可能になるSYNCROOM(写真5点)

―SYNCROOMを開発することになった背景をお聞かせください。

ヤマハ:実は、この遠隔合奏システムに関しては、約10年前から研究開発は進めていまして。遠隔地間で音声データを低遅延でやりとりして合奏するというのは、10年前に開始して、2011年に「NETDUETTO」という名前で、一般公開の研究開発テーマという形で、サービスを開始していたんですね。ここ10年間、無償で提供してきたNETDUETTOのユーザーのいろいろな声を拾いながら、チューニングを続けてきたというのが、これまでの経緯なんですよ。コロナとは関係なく、NETDUETTOという開発テーマをヤマハの公式サービスにするという決断を、2019年の春に社内で決めて、1年間開発に取り組んできたんです。それが作っている途中で、新型コロナの影響で音楽活動自体が難しくなってしまって。そこで、こうした状況で何かできることはないかと考えた結果、SYNCROOMを出す予定であることを早めに公表し、すでにNETDUETTOというベータ版が使えることを併せてお伝えしたところ、世の中の話題になり、一気に需要が高まったというのが経緯ですね。

―そもそもSYNCROOMは、どういう人にどのように使ってもらいたいという想定をしていたのですか?

ヤマハ:弊社は楽器音響メーカーとして、音楽活動をどういう風に楽しく続けていただくかという形で、ものごとを考えているんです。例えば、バンドを組んでいたのが、メンバーの一人が転勤で大阪に行ってしまうと、バンドを続けられなくなったりしますよね。実際の合奏というのは、同じ時間に同じ場所に集まらないとできない活動で、待ち合わせとか場所の手配とかも含めて、段取りがものスゴく手間なんですよね。場所にしても、スタジオとか防音施設に限られると、そもそも集まれないということもけっこうあるわけです。それが手軽に音楽を楽しむという活動の障壁になっているので、このアイデアは長年持ち続けていたことなんです。オンラインでつながって、自宅から簡単に合奏ができて、もっと手軽に音楽にアクセスできるっていうのは、本質的なソリューションとしては必要ではないか、というような議論は常に続いていました。

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