生涯の一枚、松任谷由実と山下達郎のライブ盤を振り返る

蒼氓 / 山下達郎

「J-POP LEGEND FORUM」ライブ盤特集最終週。生涯一枚、永遠のライブ盤。山下達郎さん1989年のアルバム『JOY』から「蒼氓」をお聴きいただきました。2ヶ月連続特集の最後をこのアルバムで終えようと思ったのは、この曲を流したかったからでもあります。13分39秒、フルサイズでお聴きください。素晴らしいです。オリジナルは1988年10月に出たアルバム『僕の中の少年』に収録されていました。原曲は6分弱なんですが、このライブ盤ではその倍の長さです。でも、その長さを全く感じさせません。これぞライブという一曲ですね。どんなアーティストにもパブリックイメージというのがあります。音楽ファン誰もが持っているイメージがありますが、それだけじゃない面も誰しもが持っているわけですね。特にシングルになっていない、アルバム曲とかにはそういうものが刻まれております。その人の根底にある、平たく言ってしまえば、人生観と言うんでしょうか。生き方を歌った曲ですね。「蒼氓」はまさにそういう曲です。今年はこういったコロナ禍の中で、改めて自分の人生や生きてきたこと、友人や家族など色々なことを考える中で、この曲は何か新しい光をきっと見せてくれるんではないかということでお聴きいただきました。

この歌詞の中に「憧れや名誉はいらない」、「華やかな夢も欲しくない」、「生き続けることの意味」というフレーズがあって、これは達郎さんが音楽を続けることの根底にあるこだわり方でもあると思うんですね。ライブアルバムが少ないというのも、やはりそういうこだわりだと思うんです。あれだけ演奏の音や質にこだわる人にとっては、どの会場でも、全部同じような演奏というわけにはいかない。一枚のライブアルバムで自分のツアーを象徴することは無理だということも考えるでしょう。でも『JOY』は、1980年代のライブからピックアップしている集大成なんですね。中には1981年の六本木PIT INNから、1989年の宮城県民会館のライブまでほぼ10年分のライブが選ばれているわけですが、いつのライブだったのかということが、場所だけでなく時代を超えていて、古さというの全くない。これは音質というのもありますね。アルバムから伝わってくるライブの空気とか客席との距離感が全部完璧なんです。どの曲を聴いても、客席にいて2階席の一番前からステージを観ている時の距離感、音の響き方、届き方、見え方。ライブアルバムなんだけど見える。そういう究極のライブアルバムなんだと改めて思いました。

Rolling Stone Japan 編集部

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE