アメリカ土着の呪縛、『ウィスコンシン・デス・トリップ』とは?

『ウィスコンシン・デス・トリップ』の表紙画像

「山﨑智之の軽気球夢譚(Tomoyuki Yamazaki presents The Balloon Hoax)」第2回。今回はアメリカの大地に宿る呪縛とマイケル・リージー編著の『ウィスコンシン・デス・トリップ』を掘り下げてみよう。

アメリカには、土着の呪縛がある。

幽霊や妖怪、狐狸の類いではない。アメリカの大地そのものが呪われていることは、ネオンの光の庇護から離れて小都市や村・集落を訪れてみると、日本人でも肌で感じることが出来る。たとえアメリカの地方に行ったことがない人であっても、ウィリアム・フォークナーの描くミシシッピ州ヨクナパトーファ郡、あるいはコーマック・マッカーシーの小説におけるメキシコ国境の町を筆頭に、文学や映画、音楽などで、アメリカに潜む静かな呪いに触れたことがあるだろう。

マイケル・リージー編著の『ウィスコンシン・デス・トリップ』は、そんなアメリカの闇と歪みに分け入っていく書籍だ。1890年から1910年にかけてウィスコンシン州ブラック・リヴァー・フォールズ近辺で起こった事件の数々を、当時の新聞記事や写真を掲載しながら再訪するドキュメントである同書は、1973年に刊行されてから多くの信奉者を生み、今日でも版を新たにしている。

地元の週刊紙「バジャー・ステイト・バナ」からの記事を採録、写真家チャールズ・ヴァン・シェイク(1852-1946)が撮影した3万枚に及ぶガラス乾板から選りすぐった図版を散りばめた本書。人口わずか3500人の田舎町でありながら、殺人、発狂、子殺し、自殺、放火、ジフテリアやチフスなどの疫病、ガラス割りおばさんなど、奇妙な事件が相次いでいる。ブラック・リヴァー・フォールズのあるウィスコンシン州ジャクソン郡は1900年、472人あたり1人の割合で、住民がウィスコンシン州立精神病院(現・メンドータ精神衛生研究所)に送られている。通常の都市では考えられない、尋常でない確率の高さだ。

【画像】精神病を偽り20年生きてきた男の「誰も救われない悲劇」(写真5点)

ウィスコンシン州出身のミュージシャン、サラ・ロングフィールドは故郷についてこう語っている。
「州全体が奇妙な雰囲気のある、隔離された土地柄よ。1年中ダークだから、クリエイティヴな刺激にはなる。シリアル・キラーもいるしね」

そう、ジェフリー・ダーマー、エド・ゲイン、ジョゼフ・ポール・フランクリンなどの殺人鬼を多数輩出してきたのがウィスコンシン州である。近隣するイリノイ州のシカゴやミネソタ州のミネアポリスなど、大都市の灯りがここに届くことはない。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE