テイラー・スウィフト、新作に仕掛けた賢いマーケティング戦略

ニューアルバム『フォークロア』の発売を発表したテイラー・スウィフト(Photo by Beth Garrabrant)

テイラー・スウィフトのニューアルバム『フォークロア』。オンライン予約発売限定のフィジカル商品に「the lakes」というボーナストラックが収録されている。テイラーがこの楽曲を、ファンたちの耳にいますぐ届けたいと思うならば、商品予約と引き換えに同楽曲のオンラインダウンロードを可能にすることだってできたはずだ。テイラーがフィジカルを発売する意味とは? 賢いマーケティング戦略を考察する。

人気シンガーがフィジカル商品限定のボーナストラックが収録されたニューアルバムをリリースする。それもひとつのサイトからのオンライン予約発売限定で、商品の発送は何週間もあとになる。果たして、このようなことがいままであっただろうか? 米現地時間7月23日に発売されたテイラー・スウィフトのニューアルバム『フォークロア』(デジタル配信のものは、貴重なボーナストラックを含まない16曲収録)のマーケティング戦略の巧みさは、まさにここにある。

アーティストがCDやアナログレコードといったフィジカル商品にボーナストラックをプラスするのは決して珍しいことではない。こうした戦略はアルバムそのものを所有する価値を高め、音楽ストリーミング時代においてさらなる消費を促す原動力となり得る。テイラー・スウィフトはいままで数回、過去のリリース作品にボーナストラックをプラスし、特別なデラックス盤を購入して“隠しトラック”をゲットしてねといった具合でファンたちの心をくすぐってきた。たいていの場合、ファンはこうしたレア曲を手に入れるために発売日にTarget、Walmart、Best Buyといった大型スーパー・量販店にダッシュすることは可能だ。それに対し、未公開のボーナストラック「the lakes」が収録されているテイラー・スウィフトのニューアルバム『フォークロア』のカセット、CD、アナログレコードはtaylorswift.comでしか予約販売を受け付けていないだけでなく、実際の商品が発送されるのは早くて2週間後になる。

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「the lakes」が収録されたスペシャルアルバムの販売をテイラー・スウィフトの公式サイトに限定するという判断に大きな影響を与えたのは、新型コロナウイルスのパンデミックだった。コロナショックにより、多くの小売業者がサプライチェーンあるいは閉店といった問題に直面した。「the lakes」をファンたちの耳にいますぐ届けたい。仮にテイラー・スウィフトがそう願えば、ニューアルバムのフィジカル商品の予約と引き換えに同楽曲のオンラインダウンロードを可能にすることはできた。だが、そうした場合の面白さはいったいどこにあるのだろう?

Translated by Shoko Natori

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