音楽業界が嫌う著作権裁判の敏腕弁護士、リチャード・ブッシュが闘う理由

リチャード・ブッシュ弁護士(写真左)とマーヴィン・ゲイの遺族。米カリフォルニア州ロサンゼルス2015年3月10日、ファレル・ウィリアムスとロビン・シックは故マーヴィン・ゲイの著作権侵害裁判に敗訴した。(Photo by Los Angeles Times via Getty Images)


「結果として、事態を収束するため、レコードレーベルにはおそらく何十億ドルものコストがかかったでしょう」とブッシュ氏は誇らしげに語った。「そのために、彼らは契約まで修正するはめになった。我々は、多くの成果を得ることができました」。

「ブラード・ラインズ」裁判に勝利した2015年以来、ブッシュ氏は標的をスーパースターに絞ってきた。2016年、ブッシュ氏はマーティン・ハリントン氏とトーマス・レナード氏というソングライターの代理人となった。両氏は、エド・シーランの「Photograph」に彼らが人気オーディション番組『Xファクター』の優勝者マット・カードルのために作曲した「Amazing」が盗用されていると主張した。盗作の疑いで2000万ドル(約21億円)を求めた訴訟はようやく終了し、シーランの楽曲のクレジットには、作曲者としてハリントン氏とレナード氏の名が入った。それにもかかわらずシーラン側の弁護士は、ブッシュ氏の訴訟内容には「スキャンダラスかつ侮辱的な非難があふれており、それらは被告人を辱め、名声を失墜させようとする内容である」と抗議した。

多くの人は、ブッシュ氏が音楽ビジネスで活動するクリエイターたちを不当に傷つけていると思ってやまない。このことを指摘すると、ブッシュ氏は次のように反論した。彼は「弱者」の見方であり、「顧客が正しくて、相手に問題があると感じたときしか依頼を引き受けない」と述べた。さらに同氏は次のように言い添えた。「我々が依頼される90%のケースを拒否している事実をすべての人に理解していただきたいですね。我々は、重大なメリットがあると信じない限り、依頼は引き受けません」。

読者がこの記事を読んでいるあいだも、ブッシュ氏は著名なソングライターに関する訴訟を2件こなしている。そのうちのひとつでは、トラヴィス・スコットのナンバー1ヒット曲「Highest in the Room」が「Cartier」という楽曲の盗作であると主張する3人のプロデューサー(オリヴァー・バッシル氏・ベンジャミン・ラニエ氏・ルーカス・ベンジャミン・レス氏)の代理人を務めている。

もうひとつのケースは、さらに物議を醸している。ブッシュ氏は、故ジュース・ワールドの2018年のヒット曲がパンクバンド、イエローカードが2006年にリリースした「Holly Wood Died」の著作権を侵害しているという訴訟を進めている(盗作の疑いで1500万ドルが求められているこの訴訟は、ワールドが亡くなる前に提出された。若くして亡くなったラッパーの遺産管理人が決定するまで裁判は中断)。

さらにブッシュ氏は、エミネムの作品の版権を管理している音楽出版会社エイト・マイル・スタイルの代理人として、Spotify相手に著作権侵害を訴えている(メカニカルライセンシングを専門とするハリー・フォックス・エージェンシーと共同)。ブッシュ氏は、この訴訟はダニエル・エクの会社とさらには音楽ストリーミングビジネス全体に「巨大な」インパクトを与えると信じている。ここ最近のポップスのソングライターたちのあいだでSpotifyはかならずしも高く評価されているわけではないため、Spotify起訴のニュースは一部のソングライターコミュニティに歓迎されるだろう。それでも、ブッシュ氏と彼にインスパイアされた盗作疑惑に飢えた弁護士たちには真逆の評価が与えられるべきだと主張する人もいる。

カリフォルニア州ロサンゼルスを拠点とする、ソングライターとプロデューサーのマネジメントを行う人気グループ、ミルク&ハニーの創業者であるルーカス・ケラー氏は、次のように語った。「ロサンゼルスの裁判所が作った法的前例は、著作権法のガイドラインをもはや理解できず、本当の意味での著作権侵害が何かをわからないクリエイターたちの未来を不安なものにしています」。ケラー氏は、ブッシュ氏の訴訟について次のように言い添えた。「私のクライアントの頭のなかにこうした恐怖が植え込まれるのは感心できません。短期的にはバトルに勝つかもしれませんが、最終的にこの戦争はクリエイターとソングライターの勝利によって終わると信じています」。ソングライター、マネージャー、レコードレーベル幹部は、レコーディングされた楽曲がリリースされる前に入念な検査を行う音楽学の専門家を雇うケースが増えてきたと指摘する。それは、ブッシュ氏のような弁護士がふっかけてくるコストのかさむ恥ずかしい訴訟を避けるためだ。

「ブラード・ラインズ」裁判から5年が経ったいま、著作権をめぐる流れは変わりつつあるのかもしれない。今年の3月、ケイティ・ペリーは所属レコードレーベルのキャピトル・レコードとともにペリーの「Dark Horse」はクリスチャン・ラッパー、フレイムの「Joyful Noise.」の盗作であると主張し、280万ドル(約2億9000万円)が求められていた判決をみごとに覆したのだ。カリフォルニア州の裁判所によるこの判決は、レッド・ツェッペリンの「天国の階段」に「トーラス」を盗用されたという米ロックバンド、スピリットの訴えを裁判所が退けたわずか1週間後に下された。

【記事】「天国への階段」裁判、米司法省がレッド・ツェッペリンを支持

さらには、リゾのケースもある。ジャスティンとジェレマイアのライセン兄弟がアトランティック・レコードと契約を交わしているトップアーティスト、リゾのヒット曲「Truth Hurts」の歌詞が盗作だと10月に訴えると、リゾは激しく反撃した。ライセン兄弟を永遠に葬り去ることを前提とした訴訟において、リゾの法務専門チームは「ライセン兄弟は、問題となっている素材のいかなる部分も執筆していません。未発表のデモにこの歌詞を入れるというアイデアは彼らのものでもなければ、未発表のデモの歌い方を決める際、リゾを支援したわけでもありません。彼らは、この作品の共同所有者ではありません」と書面で発表した。

訴えられた側が勝訴したこれらのケースにブッシュ氏はかかわっていないものの、こうしたケースの勢いからは、訴訟によってソングライターをみごとボコボコにされたあと、音楽業界がいまになって同程度の激しさでブッシュ氏に反撃しようとする姿勢がうかがえる。互いに許し合って生きていくときが来たのだろうか?

「互いに許し合って生きていくというのは、面白い表現ですね」とブッシュ氏はコメントした。「マーヴィン・ゲイのご遺族のような高齢者は、生きるためにマーヴィンのロイヤリティが必要です。しかし、誰かが他人の作品を利用して大金を稼いでいるのに、適切な支払いをしてくれないと思い込むのは、別の問題です。生きるためにロイヤリティが必要な人から奪う、対価を払わずにただ盗む、これも正しいことではありません」。


著者のティム・インガムは、Music Business Worldwideの創業者兼発行人。2015年の創業以来、世界の音楽業界の最新ニュース、データ分析、雇用情報などを提供している。ローリングストーン誌に毎週コラムを連載中。

Translated by Shoko Natori

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