音楽業界が嫌う著作権裁判の敏腕弁護士、リチャード・ブッシュが闘う理由

ブッシュ氏絡みの訴訟で泥沼に引きずり込まれるのは、大体ソングライターと決まっている。テキサス州ダラス出身のソングライター兼プロデューサーのスティーヴン・ソロモン氏に聞いてみればいい。ソロモン氏は、イギリスのスターシンガー、ジェイムス・アーサーの2016年の世界的ヒット曲「Say You Won’t Let Go」がザ・スクリプトの「The Man Who Can’t Be Moved」を盗用していると訴えた、ブッシュ氏のキャリアのなかでも一際目を引くケースの被告人のひとりだった。裁判は2018年に終了したものの、ブッシュ氏は前にアーサーが「常軌を逸した行動」が原因で所属レコードレーベルから解雇されていたことを指摘して相手の急所を突いた。彼が言う「常軌を逸した行動」には、2013年のラップ・バトルでの同性愛嫌悪的な発言も含まれる。

ソロモン氏は、現在も著作権侵害が一切なかったと主張している。筆者がブッシュ氏のインタビューをすることになったと語ると、ソロモン氏は次のように語った。「強欲弁護士たちは、ヒット曲のソングライターたちをエサにすることで一大ビジネスを築き上げました。裁判のコストと弁論に要する長い時間の消耗を避けるため、ソングライターは自らの利益を考えず、とりあえず事態の収束を望むだろうという点につけ込むのです。日和見主義の弁護士たちは、我こそが著作権を守るヒーローだと自画自賛しているようですが、実際には彼らこそが侵略者であり、真の悪者なんです」。

ブッシュ氏も、この相反するレガシーを潔いほど理解している。彼は、元ソングライターの顧客がいつも彼に言っていた言葉をうれしそうに語った。「ソングライターたちが私を非難するのは不思議ですね。もし彼らの作品が同じ目に合えば、真っ先に訴訟を起こすのは彼らなのに」。

20年前のニューヨークでの偶然のタクシー移動がなければ、ブッシュ氏の名が世間に知れ渡ることはなかったかもしれない。ニューヨーク・シティで恐喝をめぐる裁判に勝訴したばかりの若きブッシュ氏は、ブリッジポート・ミュージックで著作権の管理を担当していた女性の夫と同じタクシーに乗り合わせた。ブリッジポート・ミュージックはミシガン州を拠点とする独立系の音楽出版社で、ファンク・ミュージシャンによる膨大なレコーディング音源を抱えていた。ブッシュ氏いはく、彼とブリッジポート・ミュージックは「全ラップ・ミュージック業界」を相手に訴訟を起こす計画を練りはじめたのだ。いまや有名な2001年の「ブリッジポート・ミュージック対ディメンション・フィルムズ」裁判をはじめとする500ほどの訴訟が持ち上がった。「我々は、担当したすべてのケースに勝訴しましたし、そのほとんどを解決へと導いたのです」とブッシュ氏は振り返った。

音楽学の専門家は、「ブリッジポート・ミュージック」裁判の判決は、ヒップホップのサンプリング音源の使用にとって「極めて恐ろしい」ものだと語った。さらにブリッジポート・ミュージックは、メディアから「サンプル・トロール(小人)」と揶揄された。しかし、ブッシュ氏にとってこの勝利は正義そのものであった。このケースをきっかけに、ブッシュ氏は巨人ゴリアテを倒したダビデの快感を味わってしまったのだ。

2007年には、音楽業界におけるブッシュ氏の知名度はさらなる高みに達した。ブッシュ氏は、エミネムのプロデューサーであるFBTプロダクションの代理人としてユニバーサル ミュージック グループを起訴したのだ。歴史的と呼ぶにふさわしいこの訴訟において、ブッシュ氏と彼のチームは、FBTはiTunesによる売り上げとして、いままでFBTが受け取っていた12〜20%のロイヤリティではなく、売り上げの50%を手に入れる権利があると主張した。ダウンロード販売は“売り上げ”ではなく“著作権(レコーディングアーティストはここから50%の取り分をもらう)”として扱われるべきであるというのがブッシュ氏の主な論点だ。5年にわたる法廷争いの末、両者は法廷の外で事態を収束させた。だが、その前にFBTが連邦第9巡回区控訴裁判所において決定的な勝利を収め、アーティストがレコードレーベルを起訴するという類似の訴訟が多発する事態になっていた。

Translated by Shoko Natori

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