史上最高のベーシスト50選

3位 ジョン・エントウィッスル

Dezo Hoffman/Shutterstock

ザ・フーのジョン・エントウィッスルは数多くの異名を持つ。立派な体格と極めて旺盛な食欲から名付けられた「the Ox(雄牛)」や、ストイックな佇まいを表した「the Quiet One(静かなる者)」も広く知られているが、地平線の向こうから現れる獰猛な嵐のようなベースプレイにちなんだ「Thunderfingers」よりも的確なものはない。キース・ムーンやピート・タウンゼントという超一流のエンターテイナーたちとステージ上で対等に渡り合うために、彼が身につけた流動的で優雅なそのスタイルは、誰も耳にしたことがない唯一無二のサウンドを生み出した。簡潔に言うならば、彼はベースをリード楽器として扱い、ギターにも引けをとらない存在感を発揮できることを証明した。「マイ・ジェネレーション」における強烈なソロは、無数のティーンエイジャーたちがベースを始めるきっかけを作った(誰もが彼のスタイルを真似することは不可能だとやがて悟るのだが)。「エントウィッスルはロック史上最高のベーシストの1人だと思う」ラッシュのゲディ・リーはそう話している。「縁の下の力持ちという立場にとどまることなく、凄まじいテクニックとサウンドをもって、ベースという楽器が持つ無限の可能性を証明してみせた」





2位 チャールズ・ミンガス

Michael Ochs Archives/Getty Images

チャールズ・ミンガスは単なるベースプレイヤーではない。作曲家、コンセプチュアリスト、クラシックの素養を持つチェリスト、社会批評家など、時にはベーシストとしての実力が隠れてしまうほど、彼は多くの才能に恵まれていた。しかし、ゴージャスな万華鏡のような彼の楽曲の根底にあるのは、その指が弾く弦を介してバンドへと伝心する飽くなきリズムへの探究心であり、そのサウンドは巨大なトランポリンの上で跳ね回るソロイストの姿を彷彿とさせる。ドラマーで音楽的ソウルメイトだったダニー・リッチモンドとタッグを組んだ「II B.S.」や「Better Get Hit in Your Soul」等のクラシックにおける、ウォーキングラインに逞しさとスピード感をもたらす快活なプレイは、力強くも優雅な彼のスタイルの真骨頂だ。ミンガスのキャリアは30年近くに及び、その間にジャズの形は大きく変化していったが、彼のベースへのアプローチはスタイルの違いを超えた普遍的な魅力を備えている。40年代後半のライオネル・ハンプトン・ビッグ・バンド(自身の名を冠した「ミンガス・フィンガーズ」)でも、50年代のビバップシーンの盟友たちとのジャムセッション(厳格なことで知られるミンガスが、スタジオでベースのパートをオーバーダビングしたことでも有名な『ジャズ・アット・マッセイ・ホール』)でも、そして60年代に自身のアイドルであるデューク・エリントンと交わしたリズミカルでパーカッシブな対話(「マネー・ジャングル」)においても、彼の芯にあるものは少しもブレていない。ミンガスはジャズを主戦場としたが、ジョニ・ミッチェルとのコラボレーションや、ジャック・ブルースやチャーリー・ワッツ等のロック界を代表するベーシストたちを感化するなど、その影響力はジャズの世界だけに止まらなかった。生涯を通じ、ミンガスは自身の才能を認めようとしない相手に対して反論を繰り返した。ジャズの批評家たちによる人気投票の不公平さについて、彼はこう述べている。「どんなランキングにも選出されたいとは思わない。自分がどういうベースプレイヤーかは、自分が一番よく知っている」





1位 ジェームス・ジェマーソン

Wikimedia(CC BY-SA 3.0)

モータウンのリズムセクションを束ね、次から次へとヒットを生み出すことでベースプレイヤーの可能性を押し広げながらも、60年代のモータウンのレコードにはセッションミュージシャンの名前が滅多にクレジットされなかったため、ジェームス・ジェマーソンは常に知る人ぞ知る存在だった。「ジェームス・ジェマーソンは僕のヒーローになった」ポール・マッカートニーはそう語っている。「彼の名前は知ったのはつい最近だけどね」。ジェマーソンがキャリアをスタートさせた頃、ベースは実用的な補助用の楽器とみなされていた。『ジェームス・ジェマーソン:伝説のモータウン・ベース』の記述によると、ほとんどのプレーヤーは「延々と続く2ビート、ルート音と5度だけのパターン、『アンダー・ザ・ボードウォーク』以降のクリシェ的なベースライン」ばかりを求められていたという。ベースパートのシンコペーションを強調し、コードの構成音を足すことでメロディに奥行きと深みを持たせ、ゴスペルのハーモニーを思わせる様々な音色を使い分けたジェマーソンは、ベースというフィールドに革命を起こした。彼は数えきれないほど多くの名盤でベースを弾いており、誰もが知っているポップ史上屈指のベースラインを誇るテンプテーションズの「マイ・ガール」、忙しないピアノに対抗するかのような上品で快活なフレージングが印象的なグラディス・ナイトの「悲しいうわさ」、そして類い稀なメロディセンスを見事に発揮したマーヴィン・ゲイの「ホワッツ・ゴーイン・オン」等は、彼が参加したモータウンクラシックのごく一部だ。「ジェームスはベーシストの役割を一歩先へと推し進めた」そう話すのは、『ホワッツ・ゴーイン・オン』の数曲でベースを弾いているボブ・バビットだ。「機会を見つけては自分のアイディアを挟むっていうのを繰り返すうちに、それが彼の役割になっていった。彼は挑戦を続ける過程で、ベースという楽器の定義を塗り替えたんだ」



Translated by Masaaki Yoshida

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