アラニス・モリセットが語るメンタルヘルスとの闘い、大ヒット作『ジャグド・リトル・ピル』の記憶

アラニス・モリセット(Photo by Shelby Duncan)

全世界で3000万枚以上のセールスを記録した1995年のデビュー作『ジャグド・リトル・ピル』で知られるアラニス・モリセットが、通算9作目となるニューアルバム『サッチ・プリティ・フォークス・イン・ザ・ロード』を7月31日にリリースする。「怒りを愛している」と彼女は語る。「怒りは世界を動かす。怒りは境界線をひく手助けをしてくれるし、物事を変える助けになる」

他の誰もがそうであるように、アラニス・モリセットが2020年に用意していた大きな計画はうまくいかないままだ。年が明けると共に始まった『ジャグド・リトル・ピル』のミュージカルが好調のさなか、彼女は8年ぶりのアルバムを5月にリリースする予定だった。痛みに満ちた『サッチ・プリティ・フォークス・イン・ザ・ロード』だ。リリースの次は、デビュー25周年のツアーも予定されていた(編注:日本でも今年4月に『ジャグド・リトル・ピル』25周年記念公演が開催される予定だったが延期となった)。ニューアルバムは変わらずリリースされる予定ではあるが(発売日は7月31日に変更)、それ以外はみんな消え去ってしまった。「ありがちな苦痛の道のりね」とモリセットは語る。前作から10年近く経ってしまったことについては、単純にもほどがある説明で答え、彼女は笑った。「正直に言えば、3人も子供ができたからね」


ー新作は内省的で、この時勢にぴったりだと感じます。春からリリースを遅らせたことについて、どう考えていましたか。

アラニス:直感的に、いまはリリースするときじゃないと感じただけ。ひとりの女性に訪れた危機を描いたレコードを、パンデミックの最中にリリースしていいのかな、と。友人たちに延期を伝えたら、人によって賛否両論でした。たとえばある人は「ああ、待つよ、それでいい。いっぱいいっぱいだから」って言うし。完全に反対のことを言う友達もいました。「冗談でしょ。あなたの物語とあなたの言葉に没入したいのに」って。

ーあなたは20歳のときこう歌ってますよね。「今はまだ全部理解しきってるわけじゃない」。このアルバムのなかには、歳をとってまだ同じように感じていたとしても問題はないんだよ、というメッセージが含まれているように感じます。

アラニス:そうですね。それに関してはお決まりのスピリチュアルなジョークがあって、エゴのレベルで物を理解しようとしている限り、絶対に理解できることはないんです。つまり、私が消費しようとしているものとか、あるいは私が会おうとしている人、結婚しようとしている人でもいいですが、そういうものや人によって理解しようとしている限り、こうした痛み、飢えがついてまわる。私にとっては、これこそスピリチュアルなものなんです。以前「Would Not Come」というタイトルの曲(1998年作『サポーズド・フォーマー・インファチュエーション・ジャンキー』収録)を書いたことがありますが、それも同じテーマを扱ってます。同じことを同じレベルで続けている限り、新しい態度や、新しい発見、エピファニーとか、そういうものにたどり着くことはありません。私はずっと、見つかるはずがないレベルに留まったまま答えを見つけようともがいていました。私は、なんというか、「スピリチュアルな訓練を積みたい」って思ってたんです。でも何年も瞑想し続けるのは本当に骨が折れました。だって、こんな思いを抱えたまま孤独でいたいなんて人います?

ー(最新アルバム収録の)「Reasons I Drink」は依存に関するとても誠実な曲だと思います。どんなことを考えていましたか?

アラニス:依存の悪循環に陥ってしまう人びとを、恥ずかしくないのかと責めたり裁いたりする風潮がありますよね。でも、依存の中心にいるのは、私を含めて、ただ調節不全を元に戻そうとしているだけの人びとです。私たちのように本当に中毒に陥ってしまうと、はじめは助けになってくれていたものが、ついには命を奪うものに姿を変えてしまう。仕事、セックス、アルコール、さまざまなドラッグなど、なんであれ中毒に陥っている人に凄く共感するんです。こうした人びとは回復しようともがいているだけでなく、他人から裁かれることにも苦しんでいますから。



ー「Losing the Plot」では不眠症について歌っています。あなたにとって不眠症は大きな問題なんでしょうか。

アラニス:私は気分の面でまわりから凄く影響を受けやすいんです。つまり、誰かがなにか考え込んでいるかもしれないとなると、私も目が覚めてしまう。特に8カ月くらいの子どもと一緒にいるとそうなりますよ。一晩中世話をしてますから。その後に迎える状況のことを、私は一般産後活動と呼んでます。最初の2回は、もっと抑うつ症状みたいな感じでした。今回は多分うつが1%くらい。残りは単なる不安と、典型的な、ぞっとするようなPPD(産後うつ)の症状。でも、そうですね、睡眠はあんまりとれていません。眠れるときにはとにかく寝ますけど、たくさん寝られるわけではないです。でも活動するには十分なくらいは寝てます。

自分に時間の余裕がなかったら、絶対に寝られません。雑音が私を叩き起こして「ねえ、あれについて書こうよ!」って言うんです。なにかやり残したことがあって、しかもそれが自分にとって凄く大事なことだったら、寝ようとは思いません。(夜は)みんな寝静まっているから、一番クリエイティブな時間なんです。母親としての役割を降りることができる。そういうときにこそ私のミューズに従うことができるし、やってくるものをなんでも受け止める広い心を用意することができる。歌詞とか、アイデアとか、何か編集するとか、アートワークとか、なにかデザインするとか、なんでもです。

Translated by imdkm

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