アラニス・モリセットが語るメンタルヘルスとの闘い、大ヒット作『ジャグド・リトル・ピル』の記憶

アラニス独自の歌声はどこから生まれたのか?

ーもともとこの夏は、リズ・フェアーとのツアーに費やすはずでしたよね。彼女は時折、アラニスみたいなキャリアを歩みたかったんじゃないかと思わせる時があります。逆にあなたはリズ・フェアーみたいなタイプのキャリアを歩みたかったなんて思ったことはありますか?

アラニス:ぜんぜん考えたこともなかったです。だってそうするには自分であることを捨てないといけないじゃないですか。もしかしたら、ある並行宇宙では、耐えられる程度の名声で済んでいるかもしれないですね。でも22歳ではもう遅すぎたんですーー「箱を開けてしまったからにはもう元には戻せないぞ」って感じで。しばらくすると、名声も収まりました。私は無知だったので、名声がどんな軌跡をたどるかもわからなかった。それだから、「ああ、神様、これって永遠に続くんですか? もう嫌だ!」と思ってしまうほどで。でも、もちろん、状況は変わっていきます。うれしかった。また息ができるようになりました。

ーニューアルバムを聴いて、あなたの声が持つ力とユニークさを再確認しました。あなたのアラニスらしい歌声は、最も高い音域では付加倍音が聞こえる気がしますが、どこからやってきたんでしょうか。ずっとああだったんですか?

アラニス:ずっとああでしたよ! 私の息子の声にも同じものが聞こえます。息子が私と一緒に歌ってハモると、音色がぴったり一緒なんです。しかも、彼はマライア・キャリーくらいの音域が出せる。天性のものだったと思いますね。私が絶対やりたくなかったのは、意味もなく人に見せつけるためにボーカリゼーションを装飾することでした。一番大事なのは語られているストーリーですから。だからもしストーリーが1オクターブ以内で語られる必要があるなら、高い音域で歌うチャンスに恵まれなくとも、そのまま1オクターブ以内で表現しないといけない。楽曲が求めているのはそれだけなんです。ナラティブとストーリーが優先、ボーカルの楽しみはその後です。こういうことを言って自分に返ってこないようにしないといけないんですが、私はずっと、歳をとったら音域が狭くなると思ってました。でも本当のところはその反対なんです。私の音域は実際どんどん広くなってる。低い音域も、実は高いのとちょうと同じくらい楽しい。どこまで低い音が出せるだろう?みたいに。声帯っていうのは絵筆みたいなものですね。ビロードのように柔らかいこともあれば、がさがさで傷つきやすいこともありますから。

ー『ジャグド・リトル・ピル』の前にあなたが制作していた愉快なカナダ産のダンス・ポップもいまやネットで簡単に聴くことができます。1991年のシングル「トゥー・ホット」なんかをたまたま耳にすることがあったら、どう思います?

アラニス:私はずっといろんなジャンルに惹かれてました。ニューシングル「Smiling」のビデオが完成したところなんですけど、そこではたくさん踊ってます。6歳の頃から、自分は作家でありダンサーなんだと思ってたんですよ(笑)。その頃はループとエレクトリックギターが欲しかったんですーーつまり、ダンスとロックですね。私がコラボレートしていた人たちは、当たり前ではあるんですが、すごくはっきりと「いや、これかあれか、どっちかにして」という意見で。私の人生ずっと、こういうことを言われてきました。でも16とか17のときは、美しいアジェンダを持ち、素晴らしい音楽をつくる人たちと仕事をしていたんです。あと、正直言って、まだ自伝的なことを歌う準備はできてなかった。15歳ですよ、そんなの怖すぎでしょ。



ーいま本を書いているそうですね。まず、執筆の調子はどうですか? なにか伝えたいストーリーがあるんだと思いますが、出てくる名前を挙げてもらえますか?

アラニス:ええと、1300ページくらい書き上げていて、そのなかでは、あらゆる名前を出しました。でも、(完成版では)名前は出さないつもりです。つまり、多分ここそこから許可がもらえたら出すかもしれないんですが、でも「You Oughta Know」のときと似た感じで、復讐してやろうみたいなつもりで書いてるわけではないので。皮肉なのは、私は別に自分のストーリーが大事とは思ってないんです。あんまり自分を大事にしないから、自分をいたわるために人を雇ったこともあるくらいで。他の人たちのストーリーを聞くとわくわくする理由はそれですね。25人の生活を1分で台無しにするみたいな暴露本を書きたいわけじゃないんですよ。

From Rolling Stone US.




アラニス・モリセット
『サッチ・プリティ・フォークス・イン・ザ・ロード』
2020年7月31日リリース
https://alanis.lnk.to/suchprettyforksintheroad

Translated by imdkm

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