アラニス・モリセットが語るメンタルヘルスとの闘い、大ヒット作『ジャグド・リトル・ピル』の記憶

代表作『ジャグド・リトル・ピル』を振り返る

ー『ジャグド・リトル・ピル』のミュージカルは、「Ironic」の歌詞を揶揄するみたいに巧みにショウの中に組み込んでいます。「アイロニーという割に、別にアイロニックじゃない」という(1995年当時からの)指摘にとどめを刺したみたいで、ほっとしたんじゃないですか?

アラニス:ええ、次の世代が私をぶっ飛ばしたくなるまでは大丈夫でしょう。批判の大群がまた襲ってくるまではね。ディアブロ・コーディ(ミュージカルの脚本家/ 映画『JUNO/ジュノ』『ジェニファーズ・ボディ』などの脚本家として知られる)がうまくやってくれたんですよ。実は、私はあの曲をレコードに収録したくなかったんです。たくさんの人が「お願い、お願い、お願いだから」って言ってきたのを覚えてます。結局みんなが気に入っていたのはメロディだったんですが、私はそこまですごいものだと思えなくて。これはもっと大事にするべきだったのでは、と後から気づきました(笑)。やっちゃったね。



ーもうひとつミュージカルについて、ローレン・パッテンが演じるキャラクターが「You Oughta Know」に新しい文脈を付け加え、クイア・アンセムとでも呼べそうな一曲に変貌させています。自分のもっとも有名な曲がこのように力強く姿を変えるのを見て、どんな気分でしたか?

アラニス:ええと、私があの曲について好きだったのは、自分の個人的なストーリーを共有するのをある程度までにとどめていることなんです。復讐する妄想は好きだけれども、実際に復讐をしようというつもりはありません。あの曲は自分のなかから復讐心を解き放つために書きました。私はカナダ人で、自分のなかに怒りを溜め込むたちなものですから。エクササイズしたり、友人たちと愚痴ったり、曲を書いたりして発散できるんだったら、健康でいるためにもそうすることが自分にとっての責任というものです。レコードが完成さえすれば、あとはみんなと分かち合って、もう自分だけのものではなくなります。いろんな意見を聞きましたよ。「ねえ、この曲のおかげで離婚を乗り越えられたんだ」とか、「アラニス、私も男が大嫌い!」とか。私はなんていうか(あいまいに)「んー、よかったね」みたいな(笑)。今のはおいといて。あの曲にまつわるみんなのストーリーを聞くのは好きです。

それで、あの曲が『ジャグド・リトル・ピル』というミュージカルの中心になる曲に選ばれて、ああいうふうにローレンが演じたことはーー20枚ものレイヤーをあの曲にさらに重ねたんだと思う。彼女にとてつもない苦痛をもたらした関係性を、実際に理解させてくれたわけだから。対して私の経験については、話すつもりはまったくないのだけれど。だから私にとっては、聴衆に混じって座って、あの曲を本当に理解する機会でもあった。つまり、あの曲がいかに打ちひしがれたものかを。たくさんの人がただ怒りについて考えてる。私は怒りに生きてるんですよ。怒りに任せた破壊的な行動のことじゃなくて、怒りを愛している。怒りは世界を動かす。怒りは境界線をひく手助けをしてくれるし、物事を変える助けにもなる。でも、そうだな、「You Oughta Know」を見た時は、正直言って、ただこう思ったんです。「わあ、この曲がこんなにも複層的に生き生きとして聴こえるなんて」って。心があたたまる体験でした。



ミュージカル『ジャグド・リトル・ピル』出演者が歌う「Head Over Feet」

ーミュージカルを手がけるなかで、いわば19歳とか20歳のころの自分とコラボレートしなくてはいけなかったわけですよね。もしできることなら、当時の自分にどんな言葉をかけますか?

アラニス:もう何人かまわりにいてほしかったな、っていう思いだけ、伝えます。すごく孤独だった。当時は、どんなフェスに参加しても、72組の男ばかりのバンドにひとりだけアラニス・モリセット、っていう(笑)。そんなことだから、彼らの大半も私にどう接していいかわからなかったみたいで。「ええと、オーケー、おれたちは彼女とセックスするわけではない。デートするわけでもない。じゃあどうしたらいいんだ?」私の答えは、「別になにも! ただ一緒に話してくれたらいい。ファラフェル一緒に食べない?」たくさん友達をつくろうとがんばったけれど、うまくいきませんでした。こんなふつうじゃない状況ではね。名声にすっかり惑わされてしまう人もいる。私がたくさんスペースをあけておくものだから、最初はみんな困惑するんです。でも、もしそれに耐えきれなかったら、友情というには脆すぎる。公衆の目に晒されて、そのせいでいわば隔離されてしまっても平気な人物になるためには、払わなければならない対価がそれはもういろいろ、たくさんあります。私はまがいものをつかまされたんですよね。名声を目前とした人に、この惑星全体が売りつけてるやつだと思うんですけどーーこれがあればあなたの問題は全部解決です、孤独になることはありません、とか言ってね。でも、そうはならなかった。



アラニス・モリセット、1995年撮影(Photo by Al Seib/Los Angeles Times/Getty Images)

ー新曲の「Nemesis」では幻覚剤について歌ってますよね?

アラニス:ええ。私は神の存在を感じるためにいろんな門を叩いてきました。そのなかには、一時的にではあるけれど、窓を開け放ってくれたものもあります。私は好奇心の強い女の子だから、たいていのものは試してみる。エゴが消え去る体験はとてもパワフルなものだったって言う友達もたくさんいるけれど、ただ私はほんの少し、心配性な鳥みたいなところもあって。(頭の中は)いつも情報でいっぱいで、それ自体エゴが消え去るみたいな感じなんですよ。瞑想なんてしていないときでもね。だから、そういう場所にたどり着くためになにか助けを必要としたりは絶対しないですね。

Translated by imdkm

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