Chara、フィオナ・アップルを語る「このアルト・ヴォイスを聴きなさい」

Chara(Courtesy of DG AGENT)

2020年上半期における最大の衝撃作となったフィオナ・アップルの最新アルバム『フェッチ・ザ・ボルト・カッターズ(Fetch The Bolt Cutters)』の日本盤が7月22日にリリースされた。そこで今回は、Charaに彼女の魅力を語ってもらった。

辛口でお馴染みの米国メディアPitchforkで10年ぶりの10点満点を叩き出した、フィオナ・アップルの通算5枚目『フェッチ・ザ・ボルト・カッターズ』。サポート・メンバーをヴェニスビーチの自宅に招き入れ、壁を叩き床を踏み鳴らし、家中のあらゆるものを「楽器」に見立てて(犬の鳴き声まで!)レコーディングされたという本作は、フィオナが「神」と崇めるジョン・レノンの『ジョンの魂』を思わせるような、プリミティブで剥き出しなアンサンブルが印象的。ブリタニー・ハワード(アラバマ・シェイクス)のソロ作やチューン・ヤーズをも彷彿とさせるリズム・セクションの音像やクワイアの配置の仕方など、これまでの彼女の作品群からも一線を画す内容となっている。

今から24年前に1stアルバム『タイダル』で衝撃的なデビューを果たし、その後もマイペースながら良質なアルバムを作り続けてきたフィオナだが、何せ前作『アイドラー・ホイール』からは8年ものブランクがあり、若いリスナーの中には彼女の存在をあまり知らない人も多いのではないだろうか。そこでRolling Stone Japanでは、日本が誇るフィメール・シンガー・ソングライターのCharaに、フィオナ・アップルの魅力について存分に語ってもらうことにした。とりわけフィオナの初期作を熱心に聴いていたというCharaは、今回の新作をどのように聴いたのか。「生き様」をそのまま音に刻みつけるようなフィオナへの、アーティストとしての思いなどと共に聞いた。


フィオナ・アップル
1977年生まれNY出身。1996年19歳にてリリースしたデビュー・アルバム『タイダル』が478万枚の大ヒットを記録。シングル「クリミナル」は当時の米MTV史上最もオンエアされた楽曲となり、グラミー賞「Best Female Rock Vocal Performance」やMTV Video Music Awards「Best New Artist」を受賞した。1999年、2ndアルバム『真実(原題:When The Pawn...)』はタイトルの長さが当時のギネス記録に認定され、2作連続でプラチナ・セールスを記録。2005年の3rdアルバム『エクストラオーディナリー・マシーン』、2012年の4thアルバム『アイドラー・ホイール』は共にグラミー賞ノミネート。2020年4月に発表された5thアルバム『フェッチ・ザ・ボルト・カッターズ』は世界中の主要メディアに大絶賛された。


Chara
1991年9月21日にシングル「Heaven」でデビュー。オリジナリティ溢れる楽曲と独特な存在感で人気を得る。1997年のアルバム『Junior Sweet』は100万枚を超えるセールスを記録し、ライフスタイルをも含めた“新しい女性像”としての支持も獲得。2018年12月にはオリジナルアルバム『Baby Bump』をリリース、2020年2月には過去、ともに実験的ガールズバンドを組んだ相手であるYUKIとのユニット・Chara+YUKI名義でミニアルバム『echo』リリース。6月には七色の鮮やかな階段がかかる“WATA HOUSE”のリビングルームから、ジャンルに捉われない自由な表現で心に触れる暖かい時間を贈る配信プログラム「Rainbow Staircase」が始動。デビュー30周年を迎える2021年に向け、全く衰えを知らぬ音楽的探求が続く。


─Charaさんがフィオナ・アップルを熱心に聴いていたのは、彼女が1stアルバム『タイダル』(1996年)をリリースした頃だと聞きました。

Chara:私はその頃YEN TOWN BAND(1996年〜)を始めたり、5枚目のアルバム『Junior Sweet』(1997年)をリリースしたり、活動が活発な時期で。もともと女性シンガー・ソングライターは大好きで、例えばリッキー・リー・ジョーンズとかたくさんのアーティストに影響を受けてきたんだけど、彼女が出てきたときは「美人だし、素敵なアルト・ヴォイスだな」って。私も普通に歌うと結構低い声なんですけどね(笑)。まあ、そんな感じで「憧れ」というか、「きっとこの人は、おばあちゃんになっても変わらないんだろうな」と。そういう普遍的な魅力を持っている人だと思いました。



─当時、特に好きだった楽曲というと?

Chara:「Never Is a Promise」が本当に好きでしたね。こんな美しい曲が書けたらなあ、って。ミュージックビデオも素敵なんですよ。確か撮影スタジオで、クレーンを使って撮ったらしいのだけど、先日も友達のSalyuと「あのビデオいいよね!」なんて言ってました。きっと他の日本人女性アーティストでも、フィオナのこと好きだった人は多いんじゃないかな。あと、ビートルズの「アクロス・ザ・ユニヴァース」もカバーしてたよね。彼女のあのバージョンはすごく好きだった。

─「アクロス・ザ・ユニヴァース」のMVは当時の恋人だったポール・トーマス・アンダーソン(『マグノリア』『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』)が撮影監督でしたね。THE NOVEMBERSも以前、この曲をフィオナ・バージョンでカヴァーしていました。

Chara:あんな、誰もが知っている曲を自分のものにしてしまうのも凄いなあと思う。




─初期フィオナの楽曲に深く関わっていた、LA出身のプロデューサーであるジョン・ブライオンがかなりのビートルズ狂で、例えば逆回転サウンドを用いたりメロトロンを入れたり、彼の作り出すちょっとサイケデリックなアレンジも楽曲のスパイスになっていたと思います。

Chara:メロトロンの似合う声だよね。彼女は生い立ちが色々と話題になっていたけど、お父さんもお母さんもアーティストなんでしょう?

─父親が俳優のブランドン・マッガートで、母親が歌手のダイアン・マカフィー。姉のアンバー・テイルーラは、モード・マッガートというステージ・ネームで歌うキャバレーの歌手だし、兄のスペンサーは彼女のシングル「Parting Gift」でビデオ監督を務めています。

Chara:なるほどね。(本人と)話したことはないけど、彼女自身が「音楽」そのものっていう感じの人だなというのは分かる。当時ライブ行きました? 私は確か、行けてなかった気がする。

─2000年5月8日に中野サンプラザで開催された初来日公演は行きました。

Chara:お客さんはどんな感じだったんだろう……静まりかえっていた?

─のっけからピアノの前で髪を振り乱し、取り憑かれた様に歌う彼女に呆気にとられている感じでした。僕は2階席で観てたのですが、息を呑む音が聞こえてくるようでしたね。

Chara:でも、本人は案外ファンキーだったりしてね(笑)。


1997年のパフォーマンス映像。フィオナが歌っているのは代表曲の「クリミナル」

当時のライブレポを読み返して思い出したのですが、そういえば曲が終わるとステージをぴょんぴょん跳ね回ってMCしたりしていました(笑)。彼女は大の飛行機嫌いで、基本的に海外ツアーはしなかったらしいんですけど、日本だけは「興味があるから」と日程に入れたらしいんです。

Chara:へえ! 会ったら仲良くなれるかなあ(笑)。コロナ禍がなければね、今回のタイミングで来日公演もあったかもしれないのに残念。「一緒に下駄買いに行こうよー!」「かき氷食べに行こう!」とか言えたのに。

─はははは!

Chara:フジロックとか、もし出るなら絶対に観に行きたいアーティストですよね。今年はルーファス・ウェインライトも来る予定だったから、絶対に行くつもりだったし、ルーファスとフィオナがいたら最高だったな。

─それはヤバイですね。2人はさっき話したジョン・ブライオンが共通のプロデューサーだったので、ステージ上での共演もあったかもしれない。

Chara:結構、日本でも今若いシンガー・ソングライターがたくさん登場しているし、若いリスナーにも届いたらいいですよね。

─個人的には君島大空や、中村佳穂あたりが好きな人にもフィオナは聴いて欲しいです。

Chara:ちなみに、フィオナ・アップル好きな人は、他にどういう音楽聴いているのかしら。

Spotifyで調べると、最初に出てくるのがセイント・ヴィンセントで、次がパフューム・ジーニアスみたいですね。

Chara:ああ、なるほど。結構、最近のアーティストだね。例えば、このインタビューを読んでエキセントリックで独特の世界観で引き込んでくれるシンガーソングライターのルーツとか追いたい若い人は聴いたらいいよね。

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