「夏に収束」予想外れ 記録的な猛暑の米国で感染が増え続けているのはなぜか?

何がどうなっているのだろうか?

「良い質問だ。答えがあるかどうかも私にはわからない」と、ベイラー大学国立熱帯医学校(ヒューストン)のピーター・ホッテズ学長は言う。ホッテズは、米国内で屈指の感染症専門家でもある。

研究室での実験では、一般的な呼吸器系ウイルスは日光や気温、特に湿度が感染に影響することがわかっている。そこで例えば病院では、ウイルスを死滅させる目的で日常的に紫外線を使用している。また湿度によって、ウイルスを含む飛沫が空気中にどれだけ長く浮遊するかが決まってくる。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)そのものは脂肪膜で包まれていて、ある程度温度が上昇するとステーキのように焼けてしまう。

ではなぜ、研究室と実世界とでまったく異なる結果になっているのだろうか。「日光、気温、湿度によるウイルス減退の明確な関係性が解明された訳ではない」とホッテズはメールで回答してくれた。理由のひとつは、病院でウイルス除去に使用されている紫外線(UVC)は、日光として大気を通り抜けてくる紫外線(UVCよりも波長が長く地球上のほとんどの生命にとって不可欠なUVAとUVB)とは異なる点にある。また、新型コロナウイルスは新しいタイプのウイルスのため、誰も免疫を持っていない。だから気温、日光、湿度がウイルスに対して多少の影響を与えていたとしても、現時点で効果を測定することは不可能だ。「新しいタイプのウイルス病原体は免疫のない人々に感染して広まるため、季節と関係ないというのが一般的な説だ」とホッテズは説明する。

気温が上がるとエアコンの効いた部屋に人々が密集するから感染が拡大するのだ、と主張する科学者もいる。しかしホッテズは根拠が薄いと反論する。「結局のところ、このウイルスに関してわからないことがまだまだ多い。米国南部地方全体では引き続き感染が拡大し、入院患者や死亡者の数も増え続けるだろう。さらに、国内の他の地域へも拡大すると考えるべきだ」

ジョージタウン大学グローバル健康科学&安全保障センターで准研究教授を務めるコリン・カールソンは、酷暑とウイルスとの関係性について、やや異なる見解を持っている。カールソンは、科学者たちが答えを見出せないのは新型コロナウイルスに関して研究途上にあるという理由だけではない、と主張する。トランプを始めとする日和見主義の政治家らに都合よく利用されてしまうような欠点だらけの理論を急場しのぎで発表するような過ちを、科学者たちが犯してきたからだという。



「そもそもの方向性が間違っていた。科学者らは、夏になれば収束すると主張していたが、予想は外れた」 カールソンが指摘するように、新型コロナウイルスの感染が拡大し始めて数ヶ月の間に、ウイルスの季節性を主張する科学論文が次々と発表された。論文のほとんどは査読されておらず、感染症の専門家以外が書いたものも多かった。「何とかしたいと思う人たちが、どんどん議論に参加する状況だった」とカールソンは説明する。

Translated by Smokva Tokyo

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