米CIAによる心理作戦の手段は「音楽」、冷戦時の噂をジャーナリストが語る

ハイカルチャーを媒介にして、心理作戦を展開したらいいのでは、と考えたのではないか

ー自分が追っているのは陰謀論か、それとも音楽史か?という気分にはなりましたか?

今回の経験で面白かったのは、ある時はワクワクする知られざる音楽史を解明し、またある時は何十年にもわたる政府のクレイジーな陰謀論を追いかけ、またある時には完全にインチキな陰謀論者のような気分になったことです。終始ずっと、自分はいったい何に取り組んでいるのか戸惑いました。リスナーにもそんな気分になってもらいたかった。同じ気持ちになって、この手の裏の世界に踏みこんでいく感覚や、出口が分からない鏡張りの部屋のような物語に迷い込んだ時に、自分の目と耳をどこまで信じられるかを感じてもらおうと思ったんです。

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ー取材を始める前、CIAの文化的心理作戦についてどのぐらいご存じでしたか? 取材を終えた今はどう感じていますか?


この企画に本格的に取りかかる前にリサーチしたことがあったから、少しは知っていました。フランシス・ストーナー・ソーンダーズの著書『Cultural Cold War』はすごくいいですよ。ごく初期のころ、主にハイカルチャーを中心とした話です。こうした作戦は50~60年代当時、CIAの連中がみなイエール卒の白人エリート集団で、抽象表現主義とか文学誌『Paris Review』とかジャズに詳しかった、というところからきています。ハイカルチャーを媒介にして、心理作戦を展開したらいいのでは、と考えたわけです。そうしたことを踏まえたうえで、1990年代にはポップカルチャーが全盛期だったことを考えると実に面白い。CIAも1990年には、ジャクソン・ポラックの絵が冷戦時代に勝利をもたらすとは期待しないでしょう。

今回のポッドキャストには音楽に対する捉え方についても盛り込みたかった。(政府が絡んでいたと思うと)なんだかゾッとしますよ。曲を聴いた時に起こる自然な反応にも疑問が湧いてきます。政府が音楽に手を加えていたような時期を再検証したくなる、そんなストーリーを伝えたかったんです。

ーもし本当に「ウィンド・オブ・チェンジ」を書いたのがCIAだとしたら、CIAに対するあなたの印象はどのぐらい変わりますか?

そのことはずっと僕も考えていました。ポッドキャストの制作中もそうだし、その前もずっとです。CIAが書いたなんて面白い話だ、よくできた作戦だ、と言う人も大勢いるでしょうね。非の打ちどころのない出来栄えだから、彼らは称賛されてしかるべきでしょう。この曲を選んで世に送り出した途端、ロシア国民の半分が「ウィンド・オブ・チェンジ」を聴き始めたんですから。

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ー今まで耳にしてきた噂はこれにて一件落着ですか? それとも、今後も追い続けていくのでしょうか?


それはまだ分かりません。ジャーナリストとしてできることはやり尽くした感じはありますが、まだ引っかかる疑問もあります。調子はどう、と聞くのと同じですよ。今はまだポッドキャストは立ち上げたばかり。自分としては、ひとつの作品として完結したと思っています。でも数カ月後に僕がどう感じているかは、その時にならないとわかりませんよ。

Translated by Akiko Kato

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