星野源、ソロデビュー10周年記念配信ライブで見せた表現の核心と「感謝」

星野源(Photo by 西槇太一)

 
6月23日にソロデビュー10周年を迎えた星野源が、配信ライブ「Gen Hoshino’s 10th Anniversary Concert “Gratitude”」を7月12日に開催した。会場は1stアルバム「ばかのうた」発売記念として2010年7月12日に初ソロワンマンライブを行った渋谷クラブクアトロ。一夜限りのステージを独自レポートで振り返る。

●ライブ写真(8点)

自身が鳴らすポップミュージックに対して持つ矜持。不特定多数のリスナーの感性の機微に触れるためにはまず誰よりも自分が楽しまなければいけないということ。楽しむことにストイックであり続ける。誰よりも人が見覚える情感や情景の行間をふくよかに映し出すシンガーソングライターであり、誰よりも音楽を信頼し、それを万人に伝播しようとするポップアーティストの核心を見た思いだった。星野源のソロデビュー10周年を記念した初の配信ライブ「Gen Hoshino’s 10th Anniversary concert“Gratitude”」はそんな、あまりに親密なエンターテイメントだった。

配信開始とともに映し出されたのは、東京のライブハウスに通い慣れている人にとっては馴染み深いであろう渋谷クラブクアトロのエントランスだった。カメラはいつもなら入場と同時にドリンクチケットを交換する場所を通り抜けて楽屋口に向かう。扉を抜けると星野が現れ、ステージ袖へとつながる階段をあがる彼の背中をカメラが追いかけていく。星野はステージに到着すると、おもむろにギターを持ち、チューニングをしながらマイクスタンドと向き合う。そして、静かに歌い始めた。

〈音の中で 君を探してる 霧の中で 朽ち果てても彷徨う 闇の中で 君を愛してる 刻む一拍の永遠を〉

「Pop Virus」だ。星野が歌い出した一節が、あるいはその楽曲タイトル自体も含めて、図らずも今この状況にあってずっしりとした重みを伴って迫ってくる。ポップミュージックの本質を突くアーティストはいつだって少し先の未来の様相を歌の中で映し出すことがあるし、それと同時にいつどこでどのような状態で受け取っても色褪せない強度を持った普遍性をその旋律や歌詞に宿す。

〈歌の中で 君を探してる 波の中で 笑いながら漂う 夢の中で 君を愛してる 刻む一拍の永遠を 刻む一拍の永遠を〉

稲妻の閃光のように鳴り、走るアナログシンセのサウンドと照明。ドラムカウントとともにイントロのアンサンブルが聴こえてくる。星野はここでステージを降りる。すると、フロアには一定の間隔を空けてサークルを形成するように楽器とともに並び立っているバンドメンバー──長岡亮介(Gt,Cho)、河村“カースケ”智康(Dr)、ハマ・オカモト(Ba,Cho)、石橋英子(Key,Flute,Cho)、櫻田泰哲(Key)、STUTS(MPC,Tambourine)、武嶋聡(Sax,Flute,Tambourine)──が待っていた。この時点で、今回の配信ライブは本ステージではなくフロアで、いわゆる“センターステージ仕様”で行われるのだと理解する。

〈始まりは炎や棒切れではなく 音楽だった〉



Photo by 西槇太一

タイトでありながらとても自由なフィーリングに満ちたアンサンブルをバックに歌う星野は、ファンタジーではなく、リアルな感覚を込めた音楽の醍醐味を、画面の向こう側にいる人々に放とうとしていることが伝わってくる。武嶋のサックスが活き活きと響く「Pop Virus」のアウトロから解放感が増し、そのままグルーヴのテンションを高めるようにして「地獄でなぜ悪い」へ。画も、音も、とにかく近い。シンプルに歌とバンドサウンドの輪郭を感じることができる。無観客の配信ライブだからこそ、さらには、そこがライブハウスのフロアだからこそ感じられる親しみ深く密接な距離感と熱量があった。

「どうも、みなさんこんばんは、星野源です。ここ、クアトロなんですよね。ここは10年前に僕が初めてワンマンライブをやった場所なんです。10年前の、まさに今日。10年ぶりにここでライブをやろうと、ここでみんなに配信しようと思いました。たぶんステージでライブをやると思っていたと思う。でも、ここ客席(フロア)なのよ。(生の)ライブの代わりにライブっぽい配信をやるのではなく、ここならドーム公演の真ん中でもやっていた円形のライブができると思った。距離が近いライブをやろうと。普通のライブでは観れない角度から」

 
 
 
 

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