メンタルにも悪い影響を与える、現代社会におけるアイデンティティのジレンマ

しかし、プロテウス的人間はアイデンティティの拡散・喪失に陥入りやすかったり、様々な役割や社会の要求に過剰適応してしまったりして、結果としてメンタルに不調を来す危険性も高くなります。そもそも、すべての人が変化できるわけではありませんし、変化できたとしてもそれがうまくいく保証はどこにもありません。また、複数の役割を担うことは「役割コンフリクト」という状況になってしまう場合もあります。役割コンフリクトとは、中間管理職の板挟み、家庭と仕事、組織と個人など、相異なる役割の間で、両立不可能な期待に直面して悩み、苦しむことです。アイデンティティが社会との関わりの中で生まれる以上、こうした摩擦はある程度避けられませんが、現代社会においてはプロテウス的人間として「変化していかなければ」「多元的でなければ」ならないために、よりこの役割コンフリクトは増大しています。

また、昨今では生涯学習のように、自己実現のために学び続けることが推奨されています。学び続けること自体はとても素晴らしいことですし、大切なことですが、それが「企業や社会から必要とされる人材」という「材」になることを目的として、変化することを強制され続けている結果としての生涯学習であるならば、そこには外部への過剰適応による自分のアイデンティティの喪失の危険も生じますので、注意が必要となってきます。

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