メンタルにも悪い影響を与える、現代社会におけるアイデンティティのジレンマ

アイデンティティは青年期に一度確立されると、後はそれが一貫して続く、あるいはそうあるべき、というようなイメージを持たれることがありますが、実際は必ずしもそうではありません。人は成長するにしたがって、職業やパートナーの選択、加齢や社会状況の変化など、多くの選択を突きつけられ、様々な変化に対応することになり、その都度「自分とは何者であるか」を問い直すことになります。アイデンティティの感覚は「一貫していくこと」と「絶えず変化し続けていくこと」とのジレンマに常にさらされているのです。

また、現代社会では、人は「多元的なアイデンティティ」を持つようにもなっています。相手との関わりや、活動場所での役割の違いに合わせて自分のアイデンティティを変えているのです。例えば「会社での自分」、「家庭での自分」、「遊び仲間・サークルの中での自分」などです。アイデンティティは他の人々との関わりの中で作られていく、社会的なものですので、社会が変わればその在り方も変わっていきます。社会が消費社会へ、グローバル社会へと変化していくにしたがい、個人に与えられる役割や関わる場所は増加し、分化していきます。すると「社会が消費社会へと変化していくにつれて複数の自己を持つプロテウス的な人間が増加する」ようになる、と社会学者のリフトンは指摘しています。プロテウスとはギリシャ神話に出てくる、何にでも変幻自在に変化できる神のことです。また、精神科医の小此木啓吾氏は「今やこの人間が現代の適合者になろうとしている、いやむしろ、プロテウス的人間としての資質が無ければとてもこの変動社会を生き抜いてゆくことは出来ない」と述べています。

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