英国人エグゼクティブが音楽業界を牛耳っている理由とは? イギリスとアメリカの関係

音楽ビジネスにおけるイギリスとアメリカの関係

現在の音楽業界に英国人エグゼクティブが多い理由については、イギリスの人々がアメリカの一般市民よりも音楽を愛していることの表れだとする声もある。しかしAll About the Musicの最新レポートは、長く唱えられてきたその仮説の誤りを証明した。RIAAの統計によると、アメリカの消費者が2019年にストリーミングサブスクリプション、ダウンロード販売/着メロ、フィジカル版に費やした金額は、合計で87億7000万ドルとなっている。一方で、All About the Musicに掲載されたイギリスのEntertainment Retailers Associationの概算によると、同枠組みにおけるイギリスの消費者の総支出額は14億1800万ポンド(18億1000万ドル)となっている。

アメリカの人口が約3億2800万人、イギリスの人口が約6700万人であることを考慮すると、2019年にアメリカ国民1人が録音物に支払った平均額は26.74ドルとなり、イギリス国民の場合でもほぼ同じの27.01ドルとなる。アメリカ国民にとって不名誉な憶測が、これでようやく払拭されたと言っていい。

All About the Musicのレポートをより深く読むと、グローバルな音楽ビジネスにおけるイギリスとアメリカの関係について、他にも興味深い事実が他にもいくつか浮かび上がってくる。以下でそのうちの3つを紹介する。

1. ストリーミングサービスにおいて過去作への需要は増し続けているが、60年代の作品への関心は著しく低い

BPIの分析によると、昨年のイギリスにおけるストリーミング再生回数は合計で1142億回となっており、過去作はそのうちの60.3パーセントを占めている。このケースにおける「過去作」は、2年以上前にリリースされた作品と定義されている(つまり2017年以前に発表された作品を指す)。

この定義で捉えた場合、2019年のイギリスのオーディオストリーミングにおける過去作のシェアは、前年から56.5パーセント増加している。過去作に対する需要が年々増加するのは自然な現象だが(総数が週ごとに増加するため)、それでもこの上昇率は目を見張るものがある(2018年の過去作の総再生回数508億回に対し、2019年のそれは689億回となっている)。

しかしこの傾向が意味することを正確に理解するには、さらなる精査を必要とする。BPIの分析によると、昨年のイギリスにおける総ストリーミング再生回数のうち、2010年から2017年の間に発表された楽曲は全体の49.1パーセントを占めている。筆者が独自に計算したところ、それはオーディオストリーミング全体(新譜を含む)の29.6パーセントにあたる。一方、2000年から2009年までの間に発表された作品は、全体の11.7パーセントを占めている。


つまりBPIの分析に基づくと、2000年以降に発表された楽曲の再生回数は、昨年のイギリスにおけるオーディオストリーミング全体の81パーセントを占めているということだ。一方で、60年代の楽曲の再生回数は全体のわずか2.5パーセントにとどまっており、2018年および2019年の作品に対する需要の16分の1ということになる。

2. 消費者は毎日音楽を聴いているわけではなく(奇妙な話だが)、その半分以上は対価を払っていない

All About Musicには、AudienceNet/Audience Monitorが3000人の英国人ユーザーを対象に行った調査が明らかにした、今日のエンターテインメントビジネスに関する興味深い事実が掲載されている。

回答者の77.2パーセントは基本的に毎日音楽を聴くと答えており、これは音楽業界にとって非常に好ましい数値といえる。しかし、これは言い換えれば22.8パーセントの人、つまり約4人に1人が音楽をまったく聴かずに1日を過ごしているということでもある。音楽ストリーミング市場の拡大について楽観視している音楽業界にとって、これは見過ごせない事実のはずだ。 

またAll About the Musicは、イギリスの音楽ストリーミングにおける有料会員の割合についても、興味深いデータを提供している(ちなみに録音物の分野において、イギリスの市場規模はアメリカと日本に次いで世界第3位となっている)。Kantar Worldpanelが別途実施した、16歳から79歳の消費者1万5000人を対象とした調査によると、オーディオストリーミングの有料会員となっているイギリスの成人は、2019年の時点で全体の28.4パーセントとなっており、2018年の25.9パーセント、2017年の18.9パーセントという数値から増加している。この調査結果が示しているのは、イギリスのストリーミング市場の飽和(有料会員の増加が望めなくなること)は、予想よりも先になりそうだということだ。この点が重要である理由は、一般的にイギリスの音楽市場が「成熟している」と考えられているためだ(Spotifyはアメリカ上陸に先駆けて、2009年にイギリスで正式にローンチしている)。

しかし、All About the Musicは不安材料も示している。BPIの統計によると、2019年のイギリスの音楽業界におけるストリーミング収益は前年から1億120万ポンド増加(合計5億6880万ポンド)しているものの、2018年における増加額は1億2100万ポンドだった。これは世界の主な市場において、ストリーミングサブスクリプションの成長率が低下していることを裏付けている。より明るいデータとしては、Kantarが実施した調査に対し、イギリスの消費者の47.6パーセントは、2019年に「何かしら」の録音物を購入したと回答しており(フィジカル版/ダウンロード購入、ストリーミングにおける有料アカウントの維持等)、2018年の45.6パーセント、および2017年の44.5パーセントからそれぞれ増加している。

これはレコード会社にある課題を突きつけている。イギリスのような成熟に向かいつつある市場が、理想的な成長率を維持したまま、いかにして消費者の40〜50パーセントをストリーミングサービスの有料会員にさせるかということだ。

Translated by Masaaki Yoshida

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