星野源が語るソロデビューからの10年、時代と戦い続けてきた歩み

星野源(Photo by Masato Moriyama)


時代に対してどう戦っていくか
10年間不変だったカウンター精神


ー2018年の最新アルバム『POP VIRUS』は、音楽的にもテーマ的にも過去・現在・未来がすべて詰まったようなアルバムでした。

星野:制作中に強く意識していたわけじゃないんだけど……音楽的な総決算になるアルバムだな、どう考えてもそうだろうなとは思ってました。今だから鳴らすべき音、確固たるものが見えていたし、それが『ばかのうた』を作った時の気持ちとリンクしそうな予感もあった。しかも、自分がやりたいものが世界のトレンドともつながっているという確信があったから。そこに向かって突き進んでいこうという気持ちでしたね。ただ、それを日本でやっている人はまだいないので、突き詰めてやんないとできないだろうなっていうのも思ってました。

ーこの時期、「日本の風景と心の中を描きました」ってレコード店のポップとかにも書かれてたと思うんですけど、これはどういう意味だったんでしょうか?

星野:世の中に希望がなくて、生きているだけでしんどいという雰囲気が蔓延していて。ただ、そんな苦しい状況でもあたたかなものは確かにあって。例えていうなら、外は猛吹雪が吹き荒れてるんだけど、家のなかでは暖炉で火が燃えているみたいな感覚というか。それを音にしたかったんですね。これだけ社会がヤバくなってきているのに、誰も何も言わないじゃないですか。僕は音楽家なので、それを音楽で言いたいなって気持ちがあった。「今、本当にクソだよね」って感覚を自分の言い方で言うっていう。普通に生きているだけでも「怒り」が沸々と湧いてくるときってあるじゃないですか。「ふざけんなよ、マジで!」みたいな。もちろん、そのなかには「愛」もあるんだけど。それを言葉じゃなくて音楽で言いたいなって。やっぱりそれは1stの時の感覚と近かったので、ずっと使っているギブソンのギターを使って(1曲目の表題曲を)歌い始めるって構成にしたんです。



ーその感覚というのは、最新EP『Same Thing』にもつながっていますよね。表題曲の「Same Thing」は星野さんにとって初めての全英詞曲でしたが、ラディカルな変化をしていてもその表現の核にあるものは、『ばかのうた』から今作に至るまで連綿と通じているものだなと思いました。「怒り」と「愛」が同居するこのリリックは、今の時代をごまかしなく映し出しているように思います。


星野:そうですね。急に「Fuck You」と言い始めたわけじゃなくて、僕が歌ってるのはずっとそういうことですしね。この曲では、ブレネー・ブラウンという人がTEDで行った講演に影響を受けていて。彼女が言っているのは、人間は特定の感情を抑えることはできないということなんですね。喜びを感じるためには、怒りや悲しみも感じる無防備な心になることが必要で、そのどちらもあるから人間なんだと。その動画を観て「本当にそうだよね!」って希望をもらったんです。こんな苦しい世の中で悲しみや怒りを感じないという方が無理な話で。自分は悲しみとか苦しみとかをいろんな情報から得やすいタイプで、それをマイナスのことだと思ってたんだけど、でもそうじゃなくて、そういう人はその分だけ喜びを感じられるんだってことなんだ、と。どっちがマイナスとか、どっちがネガティブとかなくて、どちらも人間に備わってる。愛とFuckを同時に歌ってもいいじゃないかというのが『Same Thing』のテーマなんです。

ー2019年は海外での活動もスタートされたわけですが、「海外進出」っていうより、もっとフラットなスタンスで望まれているなと思っていました。

星野:少し前までは、日本を捨てる気概で行かないと海外では活動できなかったのかもしれないけど、今はそうじゃないと思うんです。サブスクリプションが始まったことで、音楽ビジネスのやり方に国境の壁がなくなった。日本にはまだ見えない壁があるんですけどね(笑)。でも、何か発信をした時点で世界とのコミュニケーションはスタートしているし、世界の人とわかりあうのも、隣にいる人のことを知ろうとするのも、今は同じくらいの距離感なんだと思うんです。同じくらい「遠い」し「近い」っていうか。



ー時代の空気を音楽でキャプチャーしていくということを、星野さんは意識的なのか無意識的なのか、作品ごとにきちんとやってこられたような気がしています。特に『POP VIRUS』や『Same Thing』ではインタビューでも仰られていましたが。

星野:そうですね。さっきも言いましたけど、自分の好きな音楽とかやりたい音楽はちょっとメインからは外れていて。僕にとってはすごくど真ん中なのに、なんでそうじゃないんだってフラストレーションが、SAKEROCKの頃から常にあったんですよね。それはやっぱり、時代に対してどう戦っていくかっていうカウンターだったし……言葉にすると恥ずかしいけど「ぶっ壊してやる」っていう気持ちだったんですよ。『ばかのうた』もリリースされた当時は「癒し系」って言われて悲しい気持ちになったんだけど、あのとき、「茶碗」について歌う人なんていなかったから。

ー今もいないですよ。

星野:日常にあるエロスとか、死んでいくおじいさんの話とかも、自分にとってはこういうやり方で「今」を描いている人はいないって思いで、パンクのつもりでやってたんです。だから、作品ごとに都度都度、しっかりと音楽のなかで「今の感じはこれだと思う」っていうのをやりたいと思ってやってきたつもりです。『POP VIRUS』でいえば、時代が明らかにおかしくなってきているけれど、そのなかには絶対に愛があるっていうことを表現したかった。

ーミクロからマクロまで視点を広げながら、時代や社会について、生きることの実感に根ざしながら描いている人って本当にいない気がします。だからこそ、星野さんが「伝わらない」とか「わかってもらえない」と思ってしまうのも無理はない気がしていて。

星野:そうですね。サウンドでいうと、音数が少なくてタイトなだけで「地味」って言われたり、テンポがゆっくりなだけでバラードって言われたり……。15年くらい前に雑誌で、はっぴいえんどが「癒し系」って紹介されてたんですけど、なんじゃそれっていう(笑)。日本語でロックをやるということが当時、どれだけ衝撃だったかとか、あの人たちがどれだけの反骨精神を持ってやっていたかなんて、ちょっと探ればわかるじゃないですか。僕も自分の音楽に関してはしっかりと思いを伝えていかなきゃなって思いつつ、「もう少し奥深いものを感じられた方が、楽しくない?」とは思いますね。

ー最後に、星野さんが2020年に10周年を迎えるにあたって、次の10年、「2020年代に大切にしていきたいことはなにか?」を伺って締めたいと思います。

星野:周囲にいろんなものが溢れていて、「何をやってもいいんだよ」って言われている状態だからこそ、「私はこんなふうに生きていきます」というのをしっかりと持つ。これまでの時代は「みんながやってるから自分も」っていうふうに、周りに合わせればいいって空気があった。これからもそういう傾向は強くなっていくと思うけど、だからこそ、そういう時代に自分はどう生きるのかきちんと意識するっていうのが大事になってくると思うんですよね。令和になった最初の日のこと覚えてます? 

ー雨が降ってましたよね。

星野:はい。あの日って雨だったんですよ。僕がいたのは東京で、他の地域はわからないけど(笑)。今はなんていうか、平成の間に溜め込んだ膿を出している最中な気がするんですよね。その雨が象徴的な感じがして。しばらく雨が降って止んだら、スカッとする世の中になっていくんじゃないかっていう淡い希望があって。2020年代は時代もそうだし、音楽もカルチャーも晴れやかなものになったらいいなと思います。

●星野源が自宅から語る、「うちで踊ろう」の真意とこれからの過ごし方



Gen Hoshino’s 10th Anniversary Concert “Gratitude”
初ソロライブ開催地の渋谷クラブクアトロから、10年後の同じ日に配信ライブ開催
2020年7月12日(日)19:30~開演
※7月15日(水)23:59までアーカイブ配信あり
詳細:https://zaiko.io/event/327293

Gen Hoshino Singles Box “GRATITUDE”
2020年10月21日発売
1stシングル「くだらないの中に」から11thシングル「ドラえもん」まで、
シングル全11作を現在入手困難な初回限定盤で復刻
特典CD&映像ディスクが付属したボックス仕様
予約:https://jvcmusic.lnk.to/GRATITUDE

星野源 オフィシャルサイト:http://www.hoshinogen.com/

Edited by Toshiya Oguma

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