ラン・ザ・ジュエルズが語る「クソみたいな世界」への回答、前進のサウンドトラック

ヒーローのマントを脱ぎ捨て、「生身の自分」を曝け出した

ーラン・ザ・ジュエルズとしての活動期間が10年を超え、2人とも40代になった現在、よりパーソナルな作品にしようという思いはありますか? これまでの作品がそうではなかったという意味ではありません。(El-Pが率いた)カンパニー・フロウの『Funcrusher Plus』の「Last Good Sleep」はとてもパーソナルですが、あれはもう25年くらい前でしょうか?

El-P:1997年じゃないかな。だからまぁ、もうすぐだね。



ー『RTJ4』では家族への思いなども歌われています。マイクはあるヴァースで、亡くなった母親に思いを馳せています。

キラー・マイク:「Scared Straight」(2003年作『モンスター』に収録)はパーソナルな曲だと思ってる。「母さん、俺はもうクラックを売るのはやめるよ」なんてラインがあるくらいだからな。俺はドラッグの売人だったんだよ。でもどっかで野垂れ死んだり、刑務所に入ったりして、自分の可能性を無駄にするべきじゃないってことは理解してた。これまでに出したミックステープの中には、鬱に屈することなく、音楽を作り続けるよう自分を鼓舞するためのものもあった。パーソナルな表現はいろんなことから生まれ得るんだ。



El-P:同じことを前にも訊かれたことがあるよ。「この曲ではパーソナルなことを歌ってますね」なんて言われるたびに、ちょっとした発見がある。でも俺たちは、これまでもパーソナルなことを曲にしてきたつもりさ。RTJの最初のレコードにも、そういう部分はあると思ってる。少し水で薄めたようなところはあったとしてもね。

俺たちがこれまでに出した全てのレコードに、パーソナルな一面はあったと思う。2枚目のアルバム制作に着手した頃、ラン・ザ・ジュエルズが単なるミックステープ・プロジェクトじゃなく、俺たちの声を届けるためのメイン・プラットフォームになると感じ始めてたから、2人ともより真剣に取り組むようになった。アーティストとして、作品にパーソナルな部分を投影すべきだと思った。本音や個人的なことを別のプロジェクト用にとっておくようなことはしたくなかったんだ。

ー『Run the Jewels 2』の「Early」はそのいい例ですよね。

El-P:「Early」はすごくパーソナルな曲だ。その次の『RTJ3』も、様々な感情に満ちたレコードだった。胸の内にあることを吐き出したいと感じたら、迷いなくそれを形にするってことが、今回のアルバム制作における暗黙のルールになってた。「27分間パンチの応酬だったから、ここで何か違うものを挟もう」みたいな感覚を大事にしたんだ。「Firing Squad」では、ジェイミー(El-Pの本名)とマイクはスーパーヒーローのマントを脱ぎ捨て、生身の自分を曝してる。そうすべきだって感じたんだよ。

キラー・マイク:俺のファンとElのファン、そして1stアルバムからずっとRTJを支えてくれてるファンのおかげで、弱い部分を見せてもいいんだって思えるようになった。Elが言ったように、そういうパーソナルな瞬間が今作の核になってると思う。このレコードは、これまで以上に焦点がはっきりしてる。『RTJ3』では、俺は前に出る勇気がなかった。あのレコードを作ってた時、俺はいろんなことに振り回されっぱなしだった。あちこちで黒人が殺されていて、張り裂けそうな思いをElに打ち明けてた。でも今回のアルバムでは、そういう感情をより明確にできた。身を守るための鎧を脱ぎ捨てるってこともね。

「Firing Squad」はその最たる例だ。「でも俺たちの女王は王を求めてる/ジャンキーやおべっか使いの凶悪ラッパーじゃなく」っていうラインは、俺が妻と実際に交わした会話からきてるんだ。彼女がこう言ったんだよ。「この状況に打ちのめされてちゃいけない。酒やドラッグに逃げるんじゃなく、今の状況と正面から向き合わなくちゃいけない。痛みを抱えていたとしても、人が生きていくためには喜びが必要なの」。彼女はさらにこう言った。「あなたには私や子供たちを守る義務がある。でも、そのマントを着たままじゃ無理よ。週末だけってことなら我慢する。でも、自分が夫であり父親であるってことを忘れないで」ってさ(笑)そう言ってくれた彼女に、俺はすごく感謝してるんだ。

何かをパーソナルと感じるかどうかは、それがヘヴィかどうかってことよりも、そこに人間味が宿ってるかどうかだと思う。今作ではそういう部分がより明確になってる。多くの人が抱いてるタフなイメージに反して、俺たちは胸の内をさらけ出した。かと思えば、その数分後にはエキサイティングなシーンに切り替わる。クライマックスの「Yankee」のスキットの部分のことさ。あの曲のエンディングでは銃撃隊に語りかける人物が描かれてるけど、そこに銃声は出てこない。君らのヒーローは健在だってことさ。やつらはまた戻ってくるんだよ。



El-P:「A Few Words for the Firing Squad」はすごく重要な曲なんだ。あの曲の中で、俺は大切に思ってる人々に伝えたいことを表現できた。その一部は妻に宛てたもので、毎朝隣で目を覚ます男が何者なのかってことを伝えようとした。さっき「Last Good Sleep」に触れてたけど、この曲で俺が歌ってることはその延長線上にあるんだよ。メッセージの本当の意味は、ごく一部の人にしかわからないようになってる。あの曲に込められた思いは、俺たちのオーディエンスじゃなくて、自分の身近な人々に宛てたものなんだよ。あるラインは俺の母さんにしか意味がわからないだろうし、俺の妹だけが理解できるラインもある。マイクの奥さんにしか伝わらないラインもあるだろうね。特定の人だけが真の意味を理解できる、そういう意図があるんだ。

Translated by Masaaki Yoshida

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