ボブ・ディランとワシントン大行進「キング牧師の演説は今も胸の奥に響いている」

ジョーン・バエズとボブ・ディラン(Photo by Rowland Scherman/National Archive/Newsmakers/Getty Images)

1963年3月、ワシントン大行進でのボブ・ディランのパフォーマンスを回想。「『I Have a Dream』というキング牧師の演説を、俺は間近で聞いた」とディランは語った。

ミネアポリスの元警察官、デレク・ショーヴィン被告によってジョージ・フロイドさんが殺害された事件をうけ、この数週間抗議運動が勃発しているが、アメリカ史上このような現象は60年代以来お目にかかったことがない。確かに60年代以降も大規模なデモ行進や政治抗議集会はいくつもあったが、どれひとつとしてこれほど大人数の人々が結集したことはなかった。アメリカ国内はもちろん、北はノルウェーから南はニュージーランドまで、世界各国では市民が連日のように町を埋め尽くし、警察の人種差別的な行動を終わらせようと訴えている。これを受けて政治家らもすでに法案策定に動いている。

1960年代の抗議活動は、マーティン・ルーサー・キング・Jr牧師のワシントン大行進でピークを迎えた。1963年8月28日、ナショナル・モールでのことだ。キング牧師の「I Have a Dream(私には夢がある)」の演説がもっとも有名だが、実はこの日、音楽的な催しも行われていた。メインイベントの前座として、マヘリア・ジャクソン、マリアン・アンダーソン、ジョーン・パエズ、ピーター・ポール&マリー、そしてボブ・ディランが演壇からプロテストソングを熱唱した。今回ご紹介するのは、ボブ・ディランが「しがない歩兵」を歌う映像。彼はこの日「船が入ってくるとき」「風に吹かれて」「Keep Your Eyes on the Prize」も披露した。

【動画】ボブ・ディランがワシントン大行進で歌った「しがない歩兵」

「演壇から目をあげて、『こんな大群衆は見たことない』と胸の内でつぶやいた」 2005年、マーティン・スコセッシ監督のドキュメンタリー映画『ノー・ディレクション・ホーム』で、ディランは当時のパフォーマンスをこう振り返っている。「キング牧師のあの演説を俺は間近で見ていた。今でもずっと胸の奥に響いているよ」

この時ディランはアルバム『時代は変わる』のレコーディングの真っ最中だった。アルバムは1964年1月13日にリリースされ、そのわずか7カ月後にはリンドン・ジョンソン大統領の署名により公民権法が成立した。ワシントン大行進がなかったら、このアメリカ史に残る歴史的瞬間もなかっただろう。だが、このころにはディランはプロテストソングには興味を失くし、かつての仲間たちの必死の説得にもかかわらず、60年代後期のベトナム戦争反戦活動には加わらなかった。

ジョーン・バエズは1972年の「To Bobby」という曲でも彼に呼びかけ、「風に吹かれて」や「神が味方」といった曲をもっと書いてほしい、と訴えた。「夜の声が聞こえる? ボビー」と彼女は歌う。「彼らはあなたを呼んでいる/明け方の子どもたちを見て、ボビー/彼らは死にかけている/誰も昔のあなたのようには訴えられない/やってはみるけど、やり方を忘れてしまった」

●ボブ・ディランが語るフロイドさん殺害事件とコロナ禍について

それから3年後、ディランとバエズはローリング・サンダー・レヴューで久々に共演を果たした。また2010年には2人そろってホワイトハウスのイベントに出席し、公民権運動の音楽を称えた。この時ディランは、感動的な「時代は変わる」を演奏している。現在行われている抗議デモに彼が姿を見せることはなかろうが、彼はきっと今も当時の作品を誇りに思っていることだろう。

Translated by Akiko Kato

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