サザンオールスターズが50万人を魅了、無観客配信ライブで見せたバンドとエンタメの底力

サザンオールスターズの桑田佳祐(Photo by 岸田哲平)

サザンオールスターズ初の無観客配信ライブ『サザンオールスターズ 特別ライブ2020「Keep Smilin’~皆さん、ありがとうございます!!〜」』が42回目となるデビュー記念日、6月25日に横浜アリーナにて開催された。今回のライブ、開催告知がされたのは約半月前の6月9日。急きょ決定したライブであることがこのことからもよくわかる。

ライブ当日、取材陣は横浜アリーナではなく、所属レコード会社の会議室に集まり、長机1台につき1人というソーシャルディスタンスを保った状態で着席し、前方に設置されたスクリーンを見つめながら配信がスタートするのを待った。こういう形でライブレポートを書くのはもちろん異例。若干の戸惑いはあったものの、それ以上にセットリストや演出が気になって仕方がない。特に演出に関してはどこまで派手なものになるのか、通常よりも控えめなものになるのか非常に気になっていた。これはファンだけでなく、音楽業界関係者も固唾を呑んで注目していたはず。このライブが今後の日本のエンタメの新しい形を築いていく上で大きな手本のひとつになるからだ。

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配信は定刻を10分過ぎたあたりからスタート。客席にはスタッフ以外誰もいないという異様な光景が映し出され、視聴にあたっての注意が影アナによって告げられたあとに暗転。あからさまにSEだとわかる歓声(これはライブ中も曲の前後やMC中に挿入されることになるのだけど、意外にもかなり効果的だった)が大所帯のバンドメンバーを出迎える。桑田佳祐は首の左にキスマークのメイクつき。

1曲目に鳴らされたのは「YOU」。そこから「ミス・ブランニュー・デイ(MISS BRAND-NEW DAY)」「希望の轍」と日本が誇る名曲が立て続けに放たれていく。とてつもなく豪華なセットリストに早くも膝から崩れ落ちそうになった。「希望の轍」のCメロでは歌詞を「大変な毎日をご苦労様 今日は楽しく行きましょう」と変えて披露するという特別仕様。

MCでは、デビュー42周年にあたっての感謝の言葉をファンやスタッフへ伝え、今回のライブの意義を改めて語る。そして、「姿は見えないけど皆さんの魂がここにはあります」と締めくくったあと、桑田が「それでは、最後の曲です」と冗談を飛ばすとしっかりとSEでブーイングが飛んでくる。こういう芸の細かさがいい。ああ、そう言えば、目の前に観客はいずとも「スタンドー! アリーナー!」は健在。呼びかけられるエリアごとに空席が映し出されるのがシュールで笑えた。

セカンドブロックは「Big Star Blues (ビッグスターの悲劇)」「フリフリ’65」とロックンロールをかき鳴らした後、歌謡ナンバー「朝方ムーンライト」につなぐというサザンらしい振り幅で飽きさせない。原由子のコーラスも耳に心地いい。「シャ・ラ・ラ」で聴かせた複雑なコーラスワークも見事だった。

自粛期間が長く続き、思うようなリハもできなかっただろう。しかし、蓋を開けてみればこの安定感。演奏も含めてまったく危なげがない。未曾有の異常事態においてもなお、42周年を迎えたバンドの底力を見せつけるという結果になったのだ。というより、サザンオールスターズというバンドはこの42年間、ずっとすごかった。このライブはファンやスタッフ、エッセンシャルワーカーといった様々な人たちへ感謝を示すことや、エンタメの新たな形を提示することが大きな趣旨ではあるが、世の中がどんな状況になっても自分たちは全力でカマし続けるという宣言でもあったのだろう。

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