音楽出版ビジネスもインディーズが活況、ますます曖昧になるメジャーとの境目

雇用形態、賞レース、チャートの順位にも表れている「インディーズ志向」

ASCAP授賞式での快挙はKobaltにとって大金星だが、インディーズ業界全体にとっても、近年の偉業のひとつでだ。音楽出版業界の幹部らはみな口をそろえて、ここ数年――ストリーミングの台頭と並行して――明らかに「インディーズ志向」の勢いが増している、とローリングストーン誌に語る。そうした傾向は雇用形態や賞レース、チャートの順位にも表れている。作曲家との音楽出版契約にかかる時間はぐんと短縮され、インディーズ企業が参入する道が開けた。MIDiAによる最新の分析と2020年上旬に発表された報告書によると、インディーズ音楽は音楽業界全体の4倍のスピードで成長し、インディーズ系アーティストによる収益は年内に20億ドル(約2130億円)を超えると見られている。

「弊社には、4~5カ月間でチャート1位になった曲が7曲もあります」と言うのは、インディーズ音楽出版会社Pulseの共同CEO、スコット・カトラー氏だ。「ジャンルも多岐にわたります。TOP40にカントリー。これから来そうな作品もあと5曲ほど控えています」。彼いわく、Pulseは創立10年の中でもっとも輝かしい半期を迎えているそうだ。

「独立系企業は作曲家には魅力的でしょうね。在籍者を絞っている分ずっと野心的で、細かいケアをしてくれますから」と言うのは、Prescription SongsのA&R西海岸部門主任、レア・パスリッチャ氏だ(PrescriptionはKobaltの傘下企業で、デュパ・リパのメガヒット曲のいくつかに関わっている)。「いつも言っているんです、『うちはインディーズ精神を持ちつつ、メジャー級の筋肉も備えている』って。インディーズ精神は社内のA&R部門やシンクロクリエイティブチームから来ていますが、Kobaltとの提携や彼らのグローバルリーチと資本力が筋肉となって支えてくれているんです」

幹部らは「インディーズ」という言葉の定義自体が、変化を喜んで受け入れる姿勢を表しているとも言う――移り変わりの激しいマーケットでは、小規模経営のほうが大手企業よりも臨機応変に対応できる。そこがクリエイターには魅力的に映るのだ。

カトラー氏は「インディーズとメジャー」の違いはもはや重要ではなく、こうした考え方の変化からもインディーズ作品の成長ぶりが伺える、と考えている。また両者の違いはしばしば恣意的で、場合によっては正しくない、とも付け加えた――例えば、先の授賞式ではKobaltが年間最優秀出版者賞を受賞した一方、年間最優秀インディーズ出版者賞はBMGが受賞した。だが、後者は何百万もの楽曲を手元に抱えている。

ASCAPの37年の歴史の中で、独立系企業が主要部門を受賞したことがあるかどうか同団体にコメントを求めたが、返答は得られなかった。ASCAPと並ぶ音楽出版賞を主催するBroadcast Music Inc.(BMI)が発表するのは毎年1部門だけだが、2017年に選考条件を拡大したことで、多種多様な出版形態が選考対象となった。「それまで年間音楽出版社賞は、各社が所有する楽曲数を基準としていたため、独立系音楽出版社が受賞するケースはまれでした」。だが今では、以前と違って同じ土俵で勝負できるようになった、と同団体の代表者はローリングストーン誌に語った。

Translated by Akiko Kato

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