『カセットテープ・ダイアリーズ』監督が語るスプリングスティーンの衝撃、閉塞感を打ち破るアートの力

映画『カセットテープ・ダイアリーズ』より © BIF Bruce Limited 2019

映画『カセットテープ・ダイアリーズ』が新型コロナウイルス感染拡大に伴う延期を経て、TOHOシネマズ シャンテ他にて7月3日(金)より公開される。ブルース・スプリングスティーンにインスピレーションを受けた青春音楽ドラマの制作背景を尋ねるべく、『ベッカムに恋して』などの作品で知られるグリンダ・チャーダ監督にインタビューを行った。

当初の原稿の書き出しは、こんな具合だった。「4月6日(月)。明日にも非常事態宣言が出されようというこの時に原稿を書いている。家で原稿を書くことを生業としている身にとってそれは特別なことではない。けれど、今書いている原稿が、この原稿でよかったと思う。グリンダ・チャーダ監督のポジティヴ思考に救われるし、こういう人だからこそ『カセットテープ・ダイアリーズ』のような映画を撮ることができるのだ、とも思える。」

その後、本作の公開が延期され、再びの公開決定と本稿の公開まで2カ月以上を要した。その間の世の中の動きは私がここに書くまでもないだろう。そして、改めてチャーダ監督の言葉を読みながら私は、これらの言葉と『カセットテープ・ダイアリーズ』という映画が、未来に少なからずの不安を抱く人々の心を少し軽く、少し明るくしてくれることを強く願っている。

遡って3月下旬、イギリスでは罰則を伴う外出制限が命令される直前だった。自宅で日本からのSkype取材に応じていたチャーダ監督は、前の取材が終わった後、愛犬を連れて近所を散歩中。「こんな時期にお時間いただいて恐縮です」と言うと「本当に大変なことになっているわ。みんな取り乱して、状況を把握しようと必死よ」との返事。監督が自宅に戻ると、手洗いやうがいの様子までが映し出された。長くライター生活を送っているが、20分のこの短い取材は忘れ難いものになりそうだ。



さて、本題。『カセットテープ・ダイアリーズ/Blinded by the Light(原題)』の舞台は、1987年のイギリス、ルートンという地方の町。パキスタン移民の子である主人公ジャベドは、16歳。ある時、ブルース・スプリングスティーンの音楽を聴いて雷に打たれたような衝撃を受けた彼は、得体の知れない閉塞感から解放され、自分の言葉を探し行く道を探し、そしてそれまで理解し難いと感じていた父との関係に向き合い、自らを取り巻く社会というものへの関心も強めていく。

映画の原作『Greetings from Bury Park: Race, Religion and Rock N’ Roll』は、英ガーディアン紙に寄稿するジャーナリストとして活躍中のサルフラズ・マンズールによる自伝的回顧録で、同作を読んだチャーダ監督はすぐさま、映画化したいと思ったそうだ。そもそもマンズールと、ジャーナリストでもあるチャーダ監督はスプリングスティーン仲間で、一緒にライヴに足を運ぶ仲だったそう。まずは監督の音楽体験から話を聞いてみることにした。

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