小西康陽が語る、自分の曲を自分で歌う意味「OKと思えるのに40年かかった」

自作自演文化とヴォーカル・レコード

—スクーターズの「かなしいうわさ」を歌っていたのは意外で、嬉しかったです。

小西:あれはたまに歌うと、気持ち良いんですよ。

—名曲ですね。スクーターズのオリジナル・ヴァージョンは僕がミックスしたんで、思い入れのある曲です。

小西:あ、そうですか。スクーターズのは最高です。健太郎さんがミックスしたのはアルバム・ヴァージョン?

—そうです。

小西:素晴らしい。オレのまわりのDJはあのアルバム・ヴァージョンが好きですね。



「悲しいうわさ」のオリジナルは、スクーターズの2012年作『女は何度も勝負する』収録

—今回のアルバムは、ライヴでセルフ・カヴァーを披露という形でしたけれど、スタジオ・アルバムの計画はないんですか?

小西:実はあって、ずっと考えているんですけれど、なかなかフォーカスが定まらない。ひとつは自分が歌う曲の歌詞がなかなか出来ない。それとね、今回のアルバムをトラックダウンしていて、音楽的なミスを一杯発見しちゃったんですよね。普通、スタジオでプロデューサーとして仕事するときはすぐ気づいて、言うじゃないですか、でも、歌ってるから気づかない。そこまで頭がまわらない。そういうことが一杯あって、だからスタジオで自分が歌うというのは……。

—他のプロデューサーを立てないと難しい?

小西:そうかもしれないですね。そもそも、自分で歌うアルバムに予算出してくれるメーカーがあるどうか。

—僕は小西くんの歌声、好きなんですよ。だから、すごく聴きたかった。逆から言うと、素敵なゲスト・シンガーを揃えた『わたくしの二十世紀』には、ちょっと反感のようなものを抱いていた。死とか絶望とかをこんなに素敵にパッケージされても、何度も聴けないよみたいな。で、「ゴンドラの歌」で救われて、そればかり聴いた。

小西:すべての人が健太郎さんみたいじゃないから。大半の人は(僕の歌を聴いても)これっていい訳?って思うんじゃないかと。逆に言うとね、僕、たまにベース弾くともっと弾けばいいのにと言われるけれど、ピチカート・ファイヴ時代に弾いてるくらいのことだったら、高校時代から弾けてるんですよ。ただ、自分のハードルだと、それではOKにならないので、弾かなかった。ヴォーカルに関しても同じで、このくらいだったら高校時代から歌えている。それでもOKと思えるのに、40年かかったということですかね。


Photo by Shiho Sasaki

—僕は自作自演文化に強く影響されてきたとは思います、キャロル・キングの曲はキャロル・キングが、ローラ・ニーロの曲はローラ・ニーロが歌うのが一番良いという。でも、小西くんの声にはそういう以上の何かがあると思います。あとね、声って、だんだん出なくなっちゃうじゃないですか、この年齢になると。

小西:そうなんですよ。今回、リハーサルした時に自分の歌のウィークポイントに気づいて、若い時は全然なかったリップノイズが出るようになって。自分の歌を聴いていて、フランク・シナトラのリプリーズ時代を思い出したり。若い頃からリプリーズになってからのフランク・シナトラがまったく駄目だったんですよ。

—僕は若い頃はフランク・シナトラなんてまったく聴きませんでした。ここ10年くらいですね、キャピトル時代のアルバムを聴くようになったのは。

小西:キャピトル時代はまあ許せる。戦中のコロムビア時代が素晴らしいですよ。リプリーズになってからは音程が甘い、リズム甘い、立ち上がり遅い。人間、ああまで変わってしまうんだと思う。そのリプリーズ時代のシナトラの反対を行くのが、野宮真貴さんだったんですよね。そういえば、映画に行けなくなって、今はまってるのがヴォーカルのレコードなんですよ。これまではDJでネタとして変わったカヴァーがあると、アンディ・ウィリアムズのレコードを買ったりしていたんだけれど、今は歯抜けのアルバムは全部買いたいみたいになって。

—それはヴォーカルを聴いているんですか? それとも選曲とかプロダクションを聴いてるんですか?

小西:正直言うと、あの時期のレパートリーを聴いている。もっと言うと、ああいう世代の歌手がビートルズやジミー・ウェッブを歌うようになった時期があって、ボビー・ラッセルって分かる?

—いや、分らないです。

小西: 「リトル・グリーン・アップルズ」を書いたソングライター。あと、「ハニー」とか。で、「リトル・グリーン・アップルズ」って、いろんな人が歌っている。それを全部聴きたいと思って 久しぶりにレコードに買いまくった。

—同じ曲をほとんどすべてのシンガーがカヴァーするという文化がありますよね、アメリカには。

小西:そうなんですよ。それで今、自分であの時期の、そういう8大名曲というのを決めて、「リトル・グリーン・アップルズ」やブレッドの「メイク・イット・ウィズ・ユー」、あれもいろんな人が歌っている。そういう8大名曲も探しまわっている。


フランク・シナトラの1968年作(リプリーズ時代)『Cycles』収録の「リトル・グリーン・アップルズ」

—僕はアレサ・フランクリンが「ジェントル・オン・マイ・マインド」を歌っているのが好きなんです。グレン・キャンベルでヒットした。もともとはジョン・ハートフォードが書いたカントリーの曲なんだけれど、アレサのヴァージョンはラテン・ジャズ・ゴスペルみたいになっている。で、YouTubeに当時、アレサがアンディ・ウィリアムズのテレビ・ショーに出て、それを歌った時の録画があるんだけれど、アンディ・ウィリアムズも「ジェントル・オン・マイ・マインド」を歌うんですよ。それで同じ曲には思えないね、と笑うんだけれど、これをテレビで見ていたのがアメリカ人なんだと思いました。

小西:まさにそうですね。「ジェントル・オン・マイ・マインド」は8大名曲の中に入ってます。

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